恋ドロボウ


「姫乃ちゃん!ありがとう!いちにいを連れてきてくれて」

遠征から戻るなり乱ちゃんは私と一緒に出迎えた一期一振に抱きつきながら嬉しそうに言った。
ほかの粟田口の子たちも本当に嬉しそうで、なんとなくほっとした。ずおちゃんもばみちゃんも鳴狐も短刀の子たちほどではないけどとても嬉しそうに一期一振と話していた。
夕餉も終え、自室に戻り今日1日の報告書をまとめながらそんなことを思っていた。

「人気者でちょっと妬けちゃうなー」

ぽつり呟くと側で控えていた一期一振がこちらを不思議そうに見た。

「人気者、ですか?」
「そう。みんないちにいいちにいってさ」
「まぁ、弟たちは昔からあんな感じですから私は慣れていますが……主殿は気に入りませんか」
「気に入らないわけじゃないよ?あの子たちがずっと一期一振を待っていたのは知っていたからね」

筆を置いて一期一振に向き合うと、それまでも姿勢よくしていたのに一期一振は更にピシッと正した。それがおかしくて思わず吹き出せば困ったように眉を下げながらおろおろと手を伸ばすものだから更におかしくて。
今日来たばかりだからきっと緊張しているのもあるのだろうけど、そんなに姿勢よくかしこまられるとこちらとしても少々居心地がわるい。

「ね、一期一振」
「はい、なんでしょう主殿」
「それやめよっか」
「はい?」
「主殿っていうの。姫乃でいいよ。これ主命ね」
「ええっ」

目に見えて戸惑う一期一振が面白くてさらにからかいたくなった。

「いちにい」
「ある、……姫乃様?」
「なーに、いちにい」
「いや、その……私のことは好きに呼んでいただいて構わないのですが、その、それでは私が姫乃様の兄のようでは……」
「私は構わないよ。私にとってこの本丸のみんなは家族みたいなものだから一期一振にもそう思って欲しくてさ」

短刀の子たちは特にだけど、みんな私を審神者としてではなく家族のように接してくれている。友達感覚で話してくれるタイプもいれば、妹のように扱ってくれたりお姉さんみたいに思ってくれたり、孫だって言ってくれたり!
ここはそんな温かい本丸なんだとわかってほしくて。
じーっと一期一振の目を見ていればしばらく思案して、にっこり微笑んで頷いてくれた。

「わかりました。貴女がそうおっしゃるのならば従いましょう」
「ありがと、いちにい」
「姫乃」
「ふぇ!?」

さっきの様付けからのギャップに思わず変な声が出た。
今度は一期一振がおかしそうにくすくすと笑っている。

「貴女が私を兄のように慕って呼んでくださるなら私は妹のように名前で呼ぶしかないでしょう」
「いや、そうなんだけど!急だから驚いちゃって」
「そうですか。じゃあ少しずつ慣れていってください。私は弟たちの扱いには慣れていますが妹はわからないので手探り状態ですが、頑張ろうと思います」
「そんな頑張らなくていいよ。一期は真面目なのね」
「それでいいですよ」
「え?」
「一期とお呼びください。私は貴女を妹のように思うことはできそうにないので」

にっこりと笑いながら相変わらず一期はそう告げた。え、これはまさか私が老けていると言いたいのか?
いい度胸じゃないの。刀剣とは言え、男所帯にいる女の逞しさ見せてやろうじゃないの。

「一期、綺麗な顔が傷ついてもいいのかしら?」
「戦場で傷つけば貴女が癒やしてくださるのでしょう?」
「それはそうだけど……じゃなくて!妹に見れないとはどういう了見かしら?」
「言葉のままですよ」

相変わらずにこやかな一期が少しむかついて。軽く殴るふりをして拳を一期に向けると簡単にかわされて、思いっきり手首を掴んで引っ張られた。うわ、なんて女らしさの欠片もない声が出て。でもその声はくぐもっていて。
気づくと私は一期の腕の中にいて。ぎゅっと抱きしめられていた。

「い、一期?」
「こういうのを一目惚れと言うんでしたか」
「え?」
「……姫乃のせいだよ」

少し身体が離れた瞬間、額に柔らかい感触がした。ちゅって。

「それでは弟たちを寝かしつけるのでこれで失礼します。おやすみ姫乃。また明日」
「あ……一期おやすみなさい……」

呆然としたまま一期の背中を見送る。
え?ちゅってなに?ちゅーってあれしかないよね?
考えれば考えるほど顔が火照ってくる。火が出そうだ。
どきんどきんと高鳴る心臓に明日のことを考えるともう恥ずかしくてその日の報告書が適当だったことは間違いない。
明日、どんな顔して一期に会えばいいんだ……!

恋ドロボウ

(さ、もう寝る時間だよ乱)
(うん、あ!姫乃ちゃん可愛いでしょ?僕ほどじゃないけど!)
(可愛いね。食べちゃいたいくらい)
(いちにい……なんか艶っぽい)

エロイヤルってこんなですかね。
きっと我が家の一期はたらしです←
男前ウブっ子審神者さんと相性抜群。

Title by秋桜





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