冬の片想い黄瀬くん


まっさらな雪の上をさわさわと歩いていく。

「うー、さむ……」

まだ辺りは薄暗い。太陽はまだねぼすけのようだった。
俺だってできるならまだ温かいお布団で眠っていたい。いや、そうしようとした。でも、遮ったのは大好きな君からの着信。

『おはよう黄瀬くん。昨日の雪、結構積もってるね。足元に気をつけて来てね!それじゃあまた朝練でね』

俺が一言も発していないというのに彼女は一方的に用件を告げると切ってしまった。
こんなことをされれば行かざるを得ないじゃないか。もし万が一、これで俺が行かないことがあれば彼女はきっと怒ってしばらく口をきいてくれないかもしれない。それだけはなんとか避けたかった。

「電車、止まってないかなー……」

それなら彼女に申し訳が立つのに。実際、世の中はそう甘くはないけど。
駅に近づくにつれて増える人にそんな淡い期待も打ち砕かれて。俺は改札を通ってホームで電車の到着を待つことになった。
やはり動いてはいるけどダイヤは乱れているらしく、いつもの電車は15分の遅れだった。すかさず彼女にメールする。

「電車遅れてるから少し遅れるッス」
『あらら。じゃあキャプテンと監督には伝えとくね』
「満員電車嫌ッス〜」
『潰されないように頑張って』
「無事たどり着いたらご褒美ほしいッス」
『なーに?』
「今日のお昼、俺と2人で食べてほしいッス」

俺がそのメールを送信した時、ちょうど電車がきた。ケータイをポケットにしまって乗り込む。満員電車ほど混雑はしていないけど、決して混んでいないとは言えない混み具合だった。
人混みに揺られ、目的の駅に着いたのは朝練が始まる時間だった。ケータイを確認すれば新着メールが1件。

『しょうがないなー。朝練遅刻してでも来るならね』

嫌だと言われるかと思っていた。彼女はいつも友達と食べているから、話すことすらできないのに。
嬉しくて緩む口元を隠すようにマフラーを引き上げて彼女の待つ学校へと急ぐのだった。


片想い黄瀬くん


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