誰にも渡したくなかったからで、


うちの審神者ははっきり言ってかなり俺たちに甘いと思う。出陣して刀装が剥げればすぐに戻ってこいと言うし、敵の槍にやられてほんのかすり傷を負っただけでも泣きそうな顔をして俺たちを手入れ部屋に向かわせる。
それから誰かが疲労すればその日の出陣はもう休みで。今だって審神者ーー姫乃は短刀たちにせがまれて庭先で鬼ごっこに興じている。近侍である俺は姫乃にケガをされては困るので縁側から見守っている次第である。

「鶴丸殿、お茶をお持ちしましたぞ」
「あぁ、ありがとう」

同じく姫乃から短刀たちの世話を一任されている一期一振が盆に茶を載せてにこやかにやってきた。それから俺の隣に腰をおろすと自ら持ってきた茶を飲みながら優しい眼差しで短刀たちを見つめる。

「主殿は本当に良い方ですな」
「そうだな。でもお前だって充分そうだろう?」
「そんなことはありませんよ。弟たちの世話を焼くのは楽しいものでしてな。それに愛染殿も今剣殿も保護者不在の中健やかに過ごしておられるのは主殿のおかげでありましょう」

一期一振の言葉に改めて見てみれば姫乃を見つめるみなの視線の優しさに気づく。無邪気にはしゃぐ短刀たちも姫乃もお互いを思いやっているようなそんな雰囲気がこちらにまで伝わってくる。

「お隣よろしいですか……?」
「私たちも小夜の姿を眺めにきたんです」
「あぁ、構わんぞ。珍しいな江雪左文字に宗三左文字」
「いえ、小夜が主様と一緒に遊びたいと言うので眺めにきたんですよ」

江雪左文字は盆を、宗三左文字はたしか"びでおかめら"とか言う姫乃が現代から持ち込んだカラクリを持って一期一振の隣に座った。なんだ、俺の隣じゃないのか。

「小夜、頑張るのですよ!」

宗三左文字がそう言ってかめらを構えている。江雪左文字は緊張しているらしく、手に持った湯呑みが小刻みに震えている。
姫乃の方に視線を向ければ、鬼ごっこを終えて談笑しているようだった。そこに近づいていく小夜左文字が目に入った。姫乃も小夜左文字に気づいたらしくにこっと微笑んだ。

「どうしたの小夜くん?」
「主様……僕も、一緒に遊びたくて」
「まぁ!是非一緒に遊びましょう!私、小夜くんも来てくれてとっても嬉しい!」
「主様……!」

遠目にも小夜左文字の顔がぱーっと輝くのがわかった。俺でさえも心が温かくなったのだから、江雪左文字と宗三左文字の喜びはもっとすごいだろう。

「よかったですね江雪兄様」
「はい。和睦の道はありました」

滅多に見られない2人の嬉しそうな表情になぜか一期一振も嬉しそうだった。

「鶴丸ー!一期さーん!江雪さーん!宗三さーん!みなさんも一緒に遊びましょー!」

姫乃が俺たちに向かって大きく手を振りながらそう呼ぶものだから一瞬4人で顔を見合わせたが、誰ともなく頷き微笑むと立ち上がり姫乃たちの元へ向かった。
俺たちが合流すると短刀たちも嬉しそうでなんだか弟という存在が羨ましくなった。

「えーと……これだれの大人数ですし、鬼ごっこは大変ですね。それに機動があれですしね」
「えー!姫乃ちゃん、せっかくいちにいたちを見返すいい機会だと思ったのにー!」
「あらあら、ごめんなさいね乱ちゃん。でもそういうのはあまり公平ではないでしょう?だから、今までやったことない遊びをしようと思います!」
「新しい遊び!?なになにー!」
「それは……かくれんぼです!」

はて、かくれんぼとはなんだ?俺だけ知らないのかと思いそれぞれの顔を伺ってみたが一様に首を傾げていた。
その様子を見た姫乃が説明をはじめた。どうやら誰か1人が鬼になり、他の者は鬼が探しに来るので物陰に隠れ潜み身を隠す遊びらしい。なんとも安穏とした遊びだ。

「しかし姫乃様、偵察が高い者が鬼となればそれも不公平なのではありませんか?」
「あー……それもそうね。どうしましょうか」
「でもでも!僕かくれんぼやってみたい!」
「ぼくもやってみたいですいちにいさん」
「乱、今剣殿……これは水を差してしまったようですな。姫乃様、是非やってみましょう」
「決まったな。それで、鬼とやらは誰がやるんだ?」
「私が引き受けましょう。よいですな?」
「ありがとう一期さん。それじゃみんな隠れましょう!」

わーい、などといいながら短刀たちをはじめ、一期一振以外が四方に散っていく中で俺は迷わず姫乃の後を追った。
おそらく姫乃はこの本丸の主でありながら、もっともこの本丸のことを知らないだろう。その点俺は日々驚きを求めて歩き回っているから何分詳しいと思う。

「姫乃」
「鶴丸?どうしましたか?」
「こっちだ。いい隠れ場所があるんだ」
「そうなんですか?私も連れて行ってくれるの?」
「ああ!どーんと大舟に乗ったつもりでいればいい」
「ありがとう」

にこっと俺だけに向けられる笑顔が嬉しくて、柄にもなくほんの少し照れてしまった。それを隠すように姫乃の手を取って歩き出す。きゅっと握り返される手がまた嬉しくてなお照れてしまった。
後ろからはきょろきょろと周りを見回す気配がして、やはり俺の予想は当たっていたのだと直感する。今向かっているところは俺以外知らないと思う。

「どこに向かっているの?」
「なーに、もう直に着く」

御殿のちょうど真後ろに回り込み、本丸をぐるりと巡っている林を少し入ったところに俺の目的地はあった。
背丈の小さな小薮が茂っているその向こう側がそうだった。木々の切れ間からこぼれる日差しが柔らかで穏やかな場所。

「まぁ……!こんな綺麗なところがあったのね」
「ああ。この間見つけて俺も驚いた」
「ここならそうそう見つからないでしょうね。ありがとう鶴丸」
「なーに、礼には及ばんさ。俺としてはやっとお前と2人きりになれたんだからな」
「えっ?」

繋いでいた手をぐいっと引っ張って芝生の上に座らせると俺もすぐ側に腰を下ろした。

「近侍の俺より短刀たちと一緒にいる時間が長いだろう?たまには独り占めさせてくれ」
「ふふ、しょうがないですね。見つかるまでの間だけですよ?」
「ああ、それでいい」

繋いだ手はそのままに、一期一振が探しに来るまではこうして姫乃と共にいようと思った。



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