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壊れたお人形さんたち


ひそひそ……ざわざわ……
私にとってはもはや聞き慣れたざわめきと視線も蒼依ちゃんには珍しいようだった。
コウとルカもまったく気にしていないようだったけど、少し蒼依ちゃんのことを庇うようにしているのがわかった。

「おい、あれ桜井兄弟だろ?なんではば学にいるんだよ!?」
「あ、紅城さんもいるぞ!綺麗だよなーやっぱり」

ちらほら聴こえる私たち3人の名前に蒼依ちゃんは首をかしげている。

「ねぇ、もしかして3人ってこの辺では有名人なの?」

これにはさすがに曖昧に笑うしかなかった。
きっと嫌でもわかるはずだから。誰とかわからないけれど、きっと誰かが蒼依ちゃんに私たちのことを教えるだろう。
私の腕にからめられていた腕をそっとほどいて蒼依ちゃんに微笑んだ。

「到着。ほら、クラス分け見て体育館いこ」
「うん!」

蒼依ちゃんはとびっきりの笑顔を返してくれた。


入学式のあと教室に入れば、視線とざわめきが突き刺さる。
席につけば、中等部の頃から同じだと思われる女の子たちが寄ってきた。

「紅城さんと同じクラスで嬉しいなーっ」
「グループ行動とかうちらと回ろうね!」
「えー!?それってずるくない?紅城さんは私たちと一緒にーー」
「だーめ。朱音は俺と回るから」

きゃあきゃあ言い合う女の子たちの後ろから聞き慣れた声と金髪が姿を現した。
はっ、と振り返った彼女たちはすすっと席に戻っていった。

「よっ」
「同じクラスだったんだ、ルカ」
「うん。よろしくお願いします朱音サマ?」
「冗談やめて」

クスクス笑えばルカも小さく笑った。少し肩が軽くなったような気がした。
ルカは私の隣の席だったようで話していたけど、やはりざわめきは止まらず私たちに向いていた。
もう慣れている。私もルカも。ここにはいないけど、コウも。

「な、今日一緒に帰ろ。コウはほっといてさ」
「コウ泣いちゃうかもよ?」
「ぷっ、朱音きもいよ」
「ごめん、冗談きつかったね」

そんなことを話していれば担任の先生がきてHRが始まる。
退屈な話をぼーっと聞いていれば横から紙が飛んできた。そっと視線を向ければルカが口パクであけて、と言っていた。
そっと紙を開けばルカの字で“朱音好き”と書かれていた。少しつきんと胸が痛んだ。“ばか”とだけ書いた紙を先生の目を盗んでルカに手渡せば、いつものように悲しげに笑った。

帰りは約束通り、ルカと2人で下校した。
校門を出て、はば学の制服があまりいなくなった頃合いにどちらともなく手を繋いだ。きゅっと絡ませた指を改めて握り直す。

「どうしたの?朱音」
「いつまでこうやってルカと歩けるのかなーって」
「朱音が望むならずっとこうする」

そうもいかないでしょ、そう言おうと見上げた私の唇はルカに塞がれた。優しい触れるだけのキス。

「ばかルカ」
「朱音が余計なこと言いそうだったから塞いじゃった」
「もう。外ではキス禁止。恋人じゃないんだから」

そう言えばルカはまた悲しげに笑う。私のせいで悲しそうにするルカを見るのは胸が痛むけど、応えられないんだ。

「ホットケーキ、焼いてあげようか」
「うん、お願い」

ルカと繋いだ手を離すことができない私も、気持ちに応えてあげられない私も大嫌いだ。こうしてルカの温もりに甘えないと生きられない私は弱くて大嫌いだ。
だからせめてもの償いに私は彼の大好きな温かくて甘いホットケーキをたくさん焼くんだ。

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