Tales of... | ナノ

やくそくの種

 それはまだ、ハイマの孤児院を出て間もない頃のこと。

 デクスは「もし魔物が来ても、俺がアリスちゃんを守るからね!」と妙に意気込んで、剣を両手で構えながらキョロキョロとあたりを見回していた。アリスは肩越しにそんなデクスを見て、少しは落ち着きなさいよ、と溜息を吐く。

 ふいにふわりと風が吹いて、アリスの帽子が飛んだ。同時に色素の薄い柔らかな髪が舞い、アリスの耳──ハーフエルフの証でもあるそれがデクスの目に映った。

「ああ、もう。なんなのよ、この風!」

 アリスはそう毒づいてから、拾った帽子をぽんぽんと叩いて砂埃を落とし、先程よりも目深に被りなおす。もう耳は見えない。
 デクスは普段は見ることのできない、自分のものとは違うアリスの耳を見れたことに心を躍らせた。少しだけピンと尖った耳は、彼女にとてもよく似ている。デクスはなにかとびっきりの秘密を見たような気分だった。

 そこでふっ、と頭に浮かんだ疑問。まだアリスが孤児院に来る前に、院長に教わったことがまだ微かに頭に残っていた。

「ねえ、アリスちゃん。ハーフエルフって人間より長生きするんだよね?」

 確か院長はそう言っていた。エルフは人間よりもすごく長く生きられて、その血が混ざっているハーフエルフもまた、人間よりもうんと長い時を生きるのだと。

「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」
「それじゃあ、俺もずっと長生きするね! 百歳まで生きるよ!」

 アリスはきょとんとデクスを見返す。デクスはキラキラとした笑顔で、まっすぐにアリスを見つめていた。

「そうすればアリスちゃんは一人にならないでしょ?」
「バカね、百年くらいじゃハーフエルフは死なないわよ」
「それなら百年以上生きるよ! アリスちゃんが死ぬ時まで、ずっとずっと生きてる。最後まで俺がアリスちゃんを守るよ!!」

 アリスはなんとも楽しそうにそう言うデクスから目を反らして、無理よ、そうぽつりと呟いた。

(人間がハーフエルフと同じだけ生きるなんてできるわけないでしょ。それに……、)

 それにあんたは、その前に私を裏切ってどこかへ行っちゃうんでしょう。


 その考えは予想以上にアリスを失望させた。デクスだって人間だもの。きっといつか裏切るに決まってる。最初から分かり切っていることだわ。アリスは必死にそう取り繕って、デクスの言葉に嬉しいなんて感じている心を深くに押しやった。

「ほら、バカやってないでさっさと行くわよ」
「あ、待ってよアリスちゃん!」

 アリスはすたすたと先を歩き、デクスは慌ててそれを追った。


やくそくの種
それはまだ幼い "誓い"


――――――――――

デクアリ幸せになれよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!
子ども頃のちょっとお馬鹿なデクスが可愛いです。今は救いようのないバカ。

デクスがお馬鹿だったからこそ、アリスちゃんはずっとデクスと一緒にいたんじゃないかなあ(・ω・`*)


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