Vesperia | ナノ

きみのて

 夜中、宿をこっそりと抜け出して鍛練をしていた帰り。宿の前に、街灯に照らされてぴょこぴょこと跳ねる金髪のおさげを見つけた。

「パティ? こんな時間にどうしたんだい?」
「おお、フレンか。いや〜、ユーリが見あたらんのじゃ」
「ユーリが?」
「のじゃ。おそらくジュディ姐とどこかへ行ってしまったのじゃ」

 夜中にどこかへ行ったといっても、あの二人なら問題はないだろう。そんなことより、ユーリがいないからと夜の街中で愛用の双眼鏡を使ってきょろきょろと探し回る少女が可愛らしくて、思わず微笑みが零れた。

「む、フレンも疲れておるようじゃの」
「え、ああ。鍛練をしてきたところだからね」
「そうじゃないのじゃ」
「?」

 一体、何が言いたいんだろう。発言の意図を掴めないでいると、パティに手招きをされた。片膝を地面について目の高さを合わせると、その小さいけれどあたたかい手のひらで頬を挟まれる。

「パティ…?」
「騎士というのも、辛いものじゃの」
「え?」

 フレンがその行動の意味をはかれずにいると、パティはぽつぽつと語り始めた。

「フレンだって、ユーリのようにしたいと思うことだってあったじゃろ?」
「僕、は……」

 違う、そんなことない、と言いそうになって、フレンは口をつぐむ。

 いくら性格も、行動も、自分の選んだ道も、全てが正反対だと言われるユーリとフレンでも、その根本的なところでは似た者同士なのだろう。パティの言うとおりだった。
 何度も何度も、ユーリのように行動できたら、という思いが頭を過り、剣に手を掛けそうになったこともあった。でも、その度に、違う、間違っている、と自分に言い聞かせてきた。

 法を正せば悪はなくなる。そう信じてはいるけど、いかんせん時間がかかりすぎる。だからといって諦めるつもりはないんだけど、たまに、どうしようもなく空しくなる。
 法を正そうと足掻いて四苦八苦して、でもその行動はただの空回りな時もあるわけで。その間に今も苦しんで、叫んでいる人だってたくさんいるんだ。ユーリの言うとおり。そんなことわかってる。
 でも、それなら、

(僕はこれ以上、どうすればいい…?)

 そんなことを考えていたら、フレンは思わず泣いていた。ぽろぽろ、ぽろぽろと、涙を止めようと思えば思うほど、逆に涙が溢れてくる。
 涙はそのままフレンの頬に添えられたパティの手を伝うもんだから、そのあたたかい手を濡らすのは悪いな、と思いながらもフレンは涙を止めることができなかった。

「フレン、うちらは仲間なのじゃ。辛いときは泣けばいい。いつでもうちの胸を貸してやるのじゃ」
「ふっ……ぅ…あ……、」

 そんなことをふわふわとした笑顔で言うもんだから、フレンは内に潜めてきたいろんな想いを堪え切れなくなって、思わずパティを抱きしめた。
 その小さな体躯をぎゅうっ、と抱きしめて、ぽろぽろぽろぽろ涙を流す。こんな小さな女の子相手に何をやっているんだ、なんて自己嫌悪してみたところで止められはしなかった。

「よしよし、なのじゃ」

 パティはまるで小さな小さな子どもをあやすように、ぽんぽん、とフレンの柔らかい癖毛を優しく撫でた。フレンはパティのその優しさにまた、涙を流す。

 パティの幼い身体のどこにそんな力があるのかわからないけど、この少女といると酷く安心する。騎士団長という立場上、弱音を吐くわけにはいかない。そんな責任感のようなものから、知らず知らずの内に辛い想いも全部ためこんでいたのだろう。
 一度出てきたそれは涙や嗚咽と共に、しばらくは止みそうになかった。



きみのて
それはすべてを包む、魔法の手


――――――――――

パティにフレン泣かせたかっただけなのです(^O^≡^O^)
しかしなんかあんましうまくまとまらなかった感が…


10/09



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