◎ 満月のした
テムザ山の麓に着陸させたフィエルティア号の中、ユーリは目を覚ました。今日はもう夜も遅いし、ここ連日バウルに運んでもらってばかりだったため、バウルの休息も兼ねて比較的魔物の少ないこの場所で夜を明かすことにしたのだ。
なんだか妙に目が覚めて、少し夜風に当たろうとこっそりと船室から抜け出す。その時ジュディスがいないことに気付いたが、彼女は街に泊まっていても一人で抜け出すことが少なくないのでさして気にはならなかった。それに、ここは元々ジュディスの故郷だ。普段あまり感情を見せることのない彼女だけど、なにか思うところがあったのかもしれない。
「お、バウルも起きてたのか」
ユーリが外に出ると、フィエルティア号の傍で寝そべっていたバウルが小さく鳴いた。おそらくその声量は寝ている仲間たちへの配慮だろう。ジュディスが前に始祖の隷長は人間以上の知性を持つ、と話していたのを思い出した。
「ん? どうしたんだ?」
先ほどと同じ声量で再び鳴いたバウルは、しかし先ほどとは違いなんだか寂しそうに聞こえた。ユーリにはバウルの言っていることがわからない。こんな時にジュディスがいたら、と思ったところで船室の中にジュディスがいなかったことを思い出す。
「もしかして、ジュディのことか?」
もう一度聞こえたバウルの鳴き声は、肯定のように思えた。
「どうせまたフラフラ散歩でもしてんだろ。つってももうこんな夜中だし、ちょっと様子でも見てくるわ」
そうしてユーリはバウルに後ろ手をひらひらと振って、テムザ山を登り始めた。彼女がどこに行ったかはわからないけど、砂漠なんていくらジュディスでも一人で出歩くようなところでもないだろう。
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