Vesperia | ナノ

僕は君の全てを愛する

※小説(竜使いの沈黙)若干ネタバレ


 深夜、ヘリオードの宿でゆっくりと目を覚ます。そっと周囲を伺うと、みんなはよく寝ているようだった。そのまま物音を立てないよう気を付けながら宿を抜け出した。
 昼間、街を歩いている時に魔導器──ヘルメス式魔導器を見つけたのだ。

 仲間たちに見つからず宿を抜けられたら、もう何も問題はない。自身の槍を滑らかな動作ですべらせ、魔導器の核を破壊する。それで終わり。
 本当に呆気ないものだ。これでもうこの魔導器は動かない。こんなに脆い代物が、世界の害になるだなんて一体誰が予想できたことだろう。

 静かに溜め息をつき、宿に戻る。ここ最近の戦闘続きで、さすがにジュディスにも疲労が溜まっていた。
 宿の前へつくとふいに扉が開く。少し驚きはしたものの、宿から出てきた人物を認めてなんとなく納得した。この男──ユーリならばジュディスの魔導器破壊行為のための外出に気付いてもおかしくはない。

「こんな時間に散歩か」
「あら、あなたこそ」

 お互いにそうではないとわかっている、遊びのような会話。するとユーリが眉を潜めた。その意味を測れずにジュディスが困惑していると、ゆっくりと歩み寄ってきたユーリに頭をぽんっと撫でられた。

「言いたくもないものを聞くつもりはないけど、そんな辛そうにしてまでやらないと駄目なのか? 魔導器の破壊ってのは」
「辛そう…、私が?」
「ああ」

 一体彼は何を言っているのだろう。魔導器の破壊を始めてからもう五年以上たつ。始めたばかりの頃でだって、ヘルメス式魔導器があるせいでヘルメスが──父さんが憎まれることになるのが耐えられなかった。そういった理由があったから、魔導器の破壊を辛いと思ったことはなかった。全ては大好きな父さんのため。それなのに、辛い、だなんてことあるはずがない。

 ユーリは片腕だけでジュディスの頭を抱き、なおもぽんぽんと頭を撫で続ける。あまり優しいとは言えない強い力に、不器用な彼なりの優しさを感じる。

 片腕とはいえ、こんなに強い力で抱きしめられたのは何年ぶりだろう。ジュディスはユーリの大きな手の温もりを感じながら考えた。
 そして思い出す、大好きな父のこと。最後に見た、父さんの姿。あの時、ジュディスがナギーグを使って父さんの心を読もうとしなければまた違った未来があったのかもしれない。少なくとも、あんなに後悔はしなかっただろう。

 そこで、ジュディスは自分が辛そうに見えることへの唯一の心当たりに思い当たった。そう、それはまだテムザの街にいた時。偶然ヘルメスが魔術で魔導器を破壊しているところを目撃した時だ。
 あの時のジュディスは魔導器が世界にどんな影響を与えるかなんてことは知らず、ただ父さんの行為に驚いていただけだった。あれほど魔導器を好いていた父さんが魔導器をわざと壊すだなんて。当時は父さんに聞いたその理由すら難しくてわからなかったけれど、あの時の父さんの目は本当に辛そうだった。

「…辛いのかも、しれないわね。本当はこんなこと、やりたくないのかも」

 思わずそう零しそうになった言葉を、ジュディスは慌てて呑み込んだ。駄目だ。弱音を吐いては、疑問を感じては、駄目。これは私が決めたこと。父さんを護るために、父さんの娘である私が、為すべきこと。
 例え、それが大好きな父さんの好きだったものを壊す、ということであっても。

「それでも、これが私のやらなければならないことなの」

 ジュディスはぽつりぽつりと、だけど自分に言い聞かせるように呟いた。ユーリは何も言わずに、それでも微かに震えるジュディスを抱く力は弱めずに聞いていた。

「…ま、そう言うんなら止めはしねぇけど、忘れんなよ? ジュディには俺達がついてる」
「そうね……ありがとう」
「どういたしまして。そんじゃ、散歩もほどほどにしておけよ」

 そう言ってユーリは最後にジュディスを一撫でし、宿とは反対の方に歩いていった。ジュディスは離れていった温もりに少しの寂しさを感じつつも、宿に入って布団に潜り込んだ。
 耳を澄ませば仲間たち…否、"同行者たち" の安らかな寝息が聞こえる。

(……少し、深入りしすぎたのかもしれないわね)

 はじめはほんの一時だけの関係だったはずなのに。いつの間にかこんなにも、離れがたくなってしまった。

 これは、きっとただの勘違い。長らく人と触れ合うことがなかったから、余計に情を感じてしまっているだけよ。きっと、一度離れてしまえば他の人たちと同じように何も感じずに忘れてしまうんだから。

 ジュディスはそう自分に言い聞かせて、ミョルゾを出た時からずっと肌身離さず持っていたバウルの角をぎゅっと抱きしめた。
 先程のユーリの手とは違う、無機質な冷たい感触。だけどそこにはバウルがいる。バウルと繋がっている。物理的なものとはまた違う暖かさがそこにある。

 ジュディスはヘルメスを、灰色の "アイツ" を脳裏に浮かべる。そう、私はやらなければならないの。

 角を通してバウルの心象が伝わる。大丈夫か? それは幾度となく繰り返されてきた問いだった。

 ──大丈夫よ。私は大丈夫。
 ジュディスも何度もそうしてきたように答える。しかし、いつもと違ってその言葉にほんの少しの寂寥感が混じっていることにバウルは気付いていた。

 そうしてジュディスはバウルの角を抱いたまま眠りにつき、やがて朝がくる。



僕は君の全てを愛する
だから辛いときには泣けばいい。泣いて、泣いて、思い切り泣いて。そしたら幸せそうに笑ってください。



――――――――――

ユリ、ジュディ…? はい、ユリジュディです(・ω・')キリッ
上読んだ時点で書きかけてたのを下も読んだので仕上げてみましたー。ジュディスちゃんはこれから幸せになっていくんだね!

タイトルとかはユーリ目線でもバウル目線でもいいかな!

12/18



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