◎ ゆびきりげんまん
彼女は本当に、良くも悪くも危なっかしい。いや、決して良くはないのかもしれないけれど。戦闘中、背後から『デンジャラスラダー』だの『クリティカルモーメント』だの、そんな声が聞こえるたびにヒヤヒヤして戦いどころじゃない。エステリーゼ様の彼女を呼ぶ叫び声が聞こえた時なんかはなおさらだ。
"ギャンブル人生" なんて言葉はよく耳にするけど、彼女ほどその言葉が似合う人物はいないんじゃないだろうか。
「フレン? どうしたんだ?」
「えっ、」
隣を歩くユーリの声に、ハッと我にかえる。いけない、またぼーっとしていたみたいだ。
「あ、あぁ、なんでもないよ」
最近は特に、道中考え事をして周囲への注意が疎かになるということが多い。こんなことでは騎士失格だ。
するとユーリは、何かよからぬことを考えている時のあの顔(彼のこの表情は昔から変わっていない)でふーん、と呟いた。ああ、悪い予感しかしない。こういう時のユーリの勘のよさと意地の悪さは一級品なのだ。
「そういえば、最近パティが俺のとこにまとわりついてこなくなったな」
「そ…、そうなんだ。どうしたんだろうね?」
ほらやっぱり。案の定、彼女の話題。なるべく動揺を表に出さないよう言葉を返すと、ユーリはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。
「大方、どっかの騎士団隊長サマのことでも考えてんじゃねーのか?」
「隊長…? シュヴァーン隊長のことかい?」
確かに彼は素晴らしい人だけど。そう言うと、ユーリは驚いたように目を見開いた。
「それ、マジで言ってんのか?」
「? そうだけど…」
彼はいったい何が言いたいんだろう? ユーリは呆れたような深い溜息をついて、ひらひらと手を振って僕から離れていった。
「ま、本人に聞いてみた方が早いんじゃねーの?」
去り際に面倒くせぇ、なんて言葉が聞こえたのは気のせいだろうか。
なんとなく気になってちらりと彼女の方へ目を向けると、なるほど確かに何か考え事をしているようだ。
「えっと……パティ?」
「お?」
特に用はないんだけど、どうしても彼女が気になってつい声をかけてしまう。パティは今やっと僕の存在に気付いたようで、少し驚いたみたいだった。
「おお、フレンか。どうしたんじゃ?」
「いや…最近、パティが何か悩んでいるって聞いたから。大丈夫かい?」
「む〜…。大丈夫といったら大丈夫、大丈夫じゃないといったら大丈夫じゃない、なのじゃ」
パティは難しい顔をしながら指をこめかみにあてて何かを考えているようだった。
「僕でよければ相談に乗るよ?」
「そうじゃのう…。例えば、フレンはもうすぐ騎士団に戻るじゃろ?」
「? そうだけど…」
今はユーリ達と同行しているけれど、ヘリオードに着いたら一度ヨーデル殿下と合流する予定だ。しばらくソディアやウィチル達と一緒に騎士団の仕事をして、一段落ついたらまたユーリ達に同行しようと思っている。
少しとはいえ彼女達の元から離れることになるから、彼女に悩み事があるなら解決してやりたいと思ったのだけど。
「それでな、フレンが向こうで料理を作らないかとか、また無茶せんかとか、そういうことを考えていたのじゃ」
「料理はソディア達がやってくれているけど…」
むしろ何度僕がやると言っても頑としてやらせてくれない。きっとソディアも料理が好きなのだろう。
「それに、僕も隊長として隊を指揮しないといけないからね。今までよりも無茶はしないように気を付けるよ」
「それならよかったのじゃ」
するとパティは晴れやかに笑った。まるで悩み事なんて始めからなかったかのように。
「フレンもなにか悩み事があったんじゃないかの?」
「いや、もう大丈夫だよ」
見ているだけで危なっかしいのだけど、結局はそれが彼女らしいのだと思う。怪我はしないのが一番だけど、もし彼女が怪我をしても一番に治す自信がある。
だから、僕のどうしようもない悩み事なんて、彼女のキラキラとした笑顔の前ではどうでもいいことなんだろう。
「ねえ、パティ」
「なんじゃ? フレン」
隊に戻っても、すぐに戻ってくるようにするよ。そう言うと、パティは満面の笑みで頷いた。
ゆびきりげんまん
(嘘ついたら…
もう一生フレンと話さないのじゃ)
(…それは困るな)
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無意識にお互いのこと考えたりしてたら可愛いと思います!(`・ω・´)
01/08
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