Vesperia | ナノ

あったかいね

※学パロ

 もう随分と日が短くなってきたと思う。重たい瞼を無理やり上げて、黒板の上に備え付けられたアナログ時計を見る。まさしく学校のそれらしく、白の文字盤にシンプルな黒いゴシック体の数字、同じく黒の無愛想なほどにまっすぐな針は五時を指していた。
 くあ、と大きな伸びをする。窓の外はすっかり暗くなっていて、蛍光灯の無機質な光が不自然に目に痛い。教室にはユーリ以外誰一人として残ってはいなかった。

 今まで机につっぷして眠っていたのだけど、待ち人が来る気配はない。ちらりと彼女の席を一瞥して、荷物を確かめた。鞄はまだあるから、なかなか起きないユーリを置いて先に帰ったということはないだろう。
 それよりも今は猛烈に眠い。今にも瞼が閉じてしまいそうで、いっそのことまた寝てしまおうか、なんて思って再度机に投げ出された腕に顔を埋めようとしたところだった。

 ガタン、

 ボロい教室の戸口が開く存外大きな音に、思わずユーリはびくりと跳ねた。
 想定外の衝撃ですっかり覚めた目で教室の入り口を見ると、そこにはずっと待っていたジュディスの姿。

「おはよう。まだ残っていたのね」
「あー…はよ。ま、なんとなく、な」

 言葉とは裏腹に微かに顔を綻ばせるジュディスに、自分が寝ていたところまでバッチリ見られていたユーリはバツが悪そうに答えた。

 別に特別な約束をしていたわけではない。ただ、いつの間にか一緒に帰ることが日課になっていたから今日も待っていただけ。今日は委員会で遅くなるとは聞いていたけど、それなら先に帰ろうという考えは浮かんでこなかった。

「よし、帰るか」
「そうね」

 ユーリが鞄を持って立ち上がると、ジュディスはゆったりとした動作で自身の首に真っ白なマフラーを丁寧に巻きはじめた。汚れなんてひとつもないふわふわとした白いマフラーは、深い紺色のブレザーと彼女の蒼い髪によく映える。

 二人で学校を出ると(無人の教室の消灯を忘れない彼女はさすがだ)、ユーリたちと同じように帰り路につく人影がちらほらと見えた。はあ、と吐いた息は白くて、もう冬なんだな、と実感する。

 目の前を歩く恋人たちは、お互いの手袋を片方ずつ外して、その手を繋いでいた。それを見たユーリは、ちらりとジュディスの手に目をやる。マフラーはしていても手袋をしていない彼女の白い手は、すらりと細い指先がほんのり赤く染まっていた。

「ジュディ、」
「なあに?」

 ジュディスに手を差し出してみるけど、彼女はきょとんとユーリを見つめ返すだけだった。だから手、寒いだろと言うと、ジュディスはああ、といって微笑んだ。

「私、寒さには強いの」
「………ソウデスカ」

 ああ、空回り。羞恥で顔が赤くなるのがわかる。気まずさから目線を反らして手を引っ込めようとすると、でも、とジュディスがユーリの出した手を軽く握った。

「あなたがどうしても寒い、と言うなら手を繋いであげてもいいわ」
「…そりゃどーも」

 ジュディスの手はひんやりと冷たかったけど、ユーリもぎゅっと握り返すと繋いだ掌からほんのりとあたたかさが伝わってくる。

「ねえ、ユーリ」
「ん?」
「あったかいわね」
「そうだな」



あったかいね
そんな君との帰り道



――――――――――

正直前半の件はまったく必要ないです(ドヤッ

寒さに強いとかほんとジュディスちゃん羨ましすぎて・・・!
私はおっさんタイプ(暑いのいいけど寒いのだめ)なのでぜひともジュディスちゃんにあっためてもらいたいですわ!(^O^≡^O^)爆

10/12



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