◎ そして素敵な夢を見た
「そろそろ休憩にすっか」
「お、さっすが青年! わかってるわね〜」
ユーリの言葉とともに、各々自由に休憩をとりはじめる。このあたりの魔物は先ほどほとんど倒してしまっていたので、みんなのんびりと過ごしていた。
ふと、エステルは忙しなく分厚い本をぱらぱらとめくり続けるリタに気がついた。
「リタは休まないんです?」
「あー、ちょっと調べたいことがあるからね。そんなに疲れてないし」
「でも、ダングレストの宿屋でもまともに寝ていなかったですよね?」
「大丈夫よ、徹夜なんてアスピオで慣れてるし」
エステルが話しかけても、本から顔を上げずに適当にあしらわれてしまう。でも、きっとリタだって疲れているはずだ。いくら今は戦闘メンバーに入っていないと言っても、それこそ休む間もなくずっと本とにらめっこして、難しい公式だとか言語だとかを相手にしているのだ。現に今だって思いきりしかめっ面で難しい単語をぶつぶつと呟いている。エステルにも何か手伝えることがあればいいが、城で読んだ本で得た知識しか持たないエステルにアスピオの天才魔導士であるリタの役に立つことは何もなかった。
そこで、リタが大きな欠伸を噛み殺す。やっぱり、徹夜に慣れていると言っても眠くない筈がない。
「〜っ、リタ!」
「?! な…なによ?」
「やっぱり寝てください!」
エステルのいきなりの剣幕にびくりと反応したリタは、思わずエステルの方に顔を向ける。そこには、一度やると決めたら頑として譲らないお姫様の姿。
そのままエステルはリタの横に正座して、リタの首に腕を回して無理やり頭を自身の膝に乗せた。その時リタの首がぐきっと音を立てたことには気付いていない。
「な、ななななな……!!」
「リタは少し休むべきです! そんなんじゃいつか体を壊してしまいます」
「だからってなんで…その、膝枕…なのよ」
起き上がろうにもエステルの手が頭にのっていて起き上がれない。おさえつけられているわけではないけど、このきれいな手を払いのけることはなんだか躊躇われた。
「だって、直に寝たら眠りにくいでしょう?」
「……」
別に、膝枕だって眠りやすいわけじゃない。エステルは細いからなおさら。耳が自分の頭とエステルの足で挟まれて痛いし、正座している分地面から高くて首も痛い。寝心地がいい、だなんて間違っても言えない。これなら荷物をぱんぱんに詰めた鞄を枕の代わりにした方がまだ寝やすいんじゃないだろうか。
(………でも、)
あったかいな、と思う。
小さい頃から親もいなくて、進んで人と関わろうともしなくて、ずっと独りだった。エステルたちと出会ってこうして一緒に旅をするまで、魔導器しか信じられなくて、人の温かさなんてぜんぜん知らなかったから。
(安心する…)
エステルはリタがもう寝たと思ったのか、リタのやわらかい猫毛をふわふわと撫でながら "おやすみなさい、リタ" なんてつぶやいていた。
そして素敵な夢を見た
(リタっち、嬢ちゃんの膝枕いいわね〜…)
(あら、レイヴンも誰かにしてもらったらどうかしら?)
(え、もしかしてジュディスちゃんがしてくれるとか?)
(おい、オッサン)
(青年、目! 目が怖いわよ!?)
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エステルがリタに膝枕する話がかきたかったんですー(^q^)
ところで腕枕は寝にくい、って聞いた気がするんだけど膝枕ってどうなんですかね?
09/24
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