◎ さわってみせてよ
理由は、特にない。否、気付いたらそうなっていたと言うべきか。下町で俺が借りている部屋に来たジュディを、ゆっくりとベッドに押し倒した。
ジュディを挟み込むように両肘をつき、至近距離で見つめ合う。
「……」
彼女は、何も言わない。非難も、抵抗も、誘惑も。何もせずに、ただただその紅い瞳で見つめ返してくるだけ。その紅だって、何を考えているのかわからない。
だからその瞼に、額に、眉に、頬に。触れるだけのキスを落とす。ゆっくりと、何度でも。
首筋に、喉に、そして見せびらかすように開け放たれている胸元に。彼女の肌という肌すべてに、手で触れない、唇だけの愛撫を落とし続ける。
ジュディは何の反応も示さなかった。偶に軽く喘ぐ時もあったけど、それ以外はやはり、非難も抵抗も誘惑も、何もしない。ただ黙ってされるがままになっている。
彼女の細い二の腕から肘へ、そして腕を。そこまでキスを落とすと、ふいにジュディが動いた。両腕を首の後ろに回されて、思いっきり彼女の胸元へ引き寄せられる。
そのやわらかな感触を楽しむ余裕もなく、ぎゅっと腕に力を込められて、思うように身動きがとれなくなる。
「ジュ、ディ…?」
「黙ってて」
もしかして怒っていたのかと、彼女の名前を呼んでみると、突き放したような言葉が返ってきた。突き放したような、でも、それでいて酷く優しい声音で発せられた言葉。
不思議な違和感を感じて、上目遣いでジュディの顔色を窺ってみる。すると、今までなんの感情も見せなかった彼女が、今度は悩んでいるように見えた。
何かを言おうと口を開き、吐き出した息は音を伴わずに空気に溶ける。そして困ったように口を閉じる。その繰り返し。
「……ハァ」
黙っててと言われた以上特に話すこともない。ジュディの口を開いて閉じてをしばらく見続けて、数分。ジュディは諦めたかのように溜息をついた。
そしてその数分間、一瞬たりとも緩められることのなかった腕の束縛が、さらにぎゅうっと強められた。
「ユーリ、」
「ん?」
「私だって、あなたに負けないくらいの自信はあるわ」
「……」
「お姫様じゃないんだもの。それに、エステルやリタでだって、あなたが危惧しているほど脆くはないわ」
「…参ったな」
なんでもお見通し、ってか。
女は男なんかよりよっぽど強くできているのよ、なんて呟いてから、ジュディは漸く俺を解放した。
俺はそのまま少し横にずれて、ジュディの隣にぽすんと寝転がる。人ひとりが寝ることしか考えられていないこのシングルベッドに、いい大人が二人も寝るとさすがに狭い。不思議そうにころん、とこちらを向いたジュディの、細くて長い睫毛までよく見えた。
思わずそっと手をのばす。でも、彼女が、ジュディが、大切で、愛しくて、大事にしたくて、いとおしくて、本当に、どうしようもないくらい、大好きで。
彼女に触れることを、一瞬躊躇う。
躊躇した俺の左手を知ってか知らずか、ジュディはにこりと笑ってみせた。そこで、さっき彼女の言葉を思い出す。俺が危惧しているほど脆くはない。女は男よりも強くでいている。だったか。
一気に肩の力が抜けて、今度はしっかりと、だけど細心の注意をはらってゆっくりと彼女の髪を梳いた。ジュディはくすぐったそうに目を細める。
「ジュディ、」
「なぁに?」
その優しい返事に安心して、髪を撫でていた手をそのままジュディの白くてやわらかい頬に当てる。
「俺、…恐かったんだ。今まで誰かと触れ合ってきたことはそれなりにあったし、女と寝たこともあった。でも、それは遊びとか、その場のノリとか、そんなんばっかだった」
「ええ」
「だから、ジュディが、本当に大切にしたいヤツができたのに、その方法がわからなかった。触れたら、壊れちまいそうで」
「言ったでしょう? 女はそれほど脆くはできていないのよ」
「ははっ、そうみてぇだな」
どうだと言わんばかりに微笑むジュディを見て、自然と口元が綻ぶ。本当に、彼女には適わない。
「それにしても珍しいわね、あなたが弱音を吐くなんて」
「それだけジュディが大切ってことだよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね」
今度は目の前にいる彼女を思いっきり強く抱きしめた。強く、強く、大切なものが離れないように。大切なものを離さないように。
( 愛してる )
そんな言葉を呟いたのは、一体どちらの唇だっただろうか。
さわってみせてよ
(あいしてるなら、そのてでみせて)
――――――――――
ちょっとR12くらいはつけといた方がいいのかな? と思ったんですがよくわからないのでそのままです(笑)
大切にしたいのにその方法がわからないユーリさんとかめちゃくちゃ可愛いと思うんですが!(^O^≡^O^)
アダルティーなユリジュディもいいけど、アダルティーなふたりだからこそ中学生の恋愛みたいにうじうじしてたりとかしたら可愛いですよね!
そんな内容になってるかはわかりませんが!笑
09/20
← →
back