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満月のした

 そしてユーリが崩壊したテムザの街につくと、予想通りジュディスがそこにいた。

「こんなとこで何してんの、オネーサン」
「あら、あなたこそ」

 声をかけながらジュディスの横に立ったけど、彼女はたいして驚いていないようだった。ちらりとユーリを一瞥してから視線を満月にやる。

「バウルが心配してたぜ」
「バウルが?」

 本題を口にすると今度はかなり驚いたらしく、目を丸くさせてユーリに視線を戻した。しかしまたすぐに表情は戻り、なんだか哀しそうにそう、と呟く。

「私、バウルに謝らなければいけないわね」
「ん?」
「バウルはいずれ、精霊になる。イフリート達にも励まされて、バウルは精霊になる覚悟を決めたの。でも…私は、その覚悟を決められていない」
「バウルが精霊になっても、今の記憶はあるんだろ?」
「そうね。でも、それはもうバウルではない」
「次第に新しい意識に塗り替えられていく…だったか」
「ええ。バウルは新しい名前を授かって、新しい存在として生きていくわ」

 ユーリはジュディスと共に満月を見た。暗い深い闇の中に、ぽっかりと空いた幻想的で狂気的な光。力強く美しいと、そう思うのに、どこか今にも消えてしまいそうな儚さを感じる。まるで今の彼女のように。

「そうしたらまた、名前はエステルがつけるのかしらね」
「そうか?」
「あら、精霊はエステルの力で生まれる。いわばエステルは親みたいなものよ。子供の名前を親がつけるのは当然でしょう?」
「まぁ、そういうもんか」

 そこでふと、ユーリは思いついたかのようにジュディスに問いかけた。

「そういや、バウルの名前って…」
「私がつけたのよ」
「ジュディが?」
「ええ。バウル…古代語で "自由" といった意味なの」
「いい名前だな」
「でしょう?」

 ふふ、と笑ったジュディスの顔はとても楽しそうで、まるでカロルやパティと同じくらいの年齢の子供のように見えた。
 その笑顔を見て、ふとユーリは口を開いた。

「それならバウルが精霊になっても、またジュディが名前をつけてやればいいんじゃねぇか?」
「え?」
「親が子供の名前をつけるのは当たり前でも、別にそれは義務じゃねぇだろ」

 その言葉にジュディスは少し驚いたのか、きょとんとユーリを見つめ返してからそうね、と笑った。

「せっかく精霊になるんですもの。"バウル" に負けない、いい名前をつけてあげなくてはね」

 そう呟いたジュディスは口元こそ笑ってはいたけど、その瞳は切なげに揺れていた。

 そのことに気付いたユーリはジュディスの頭をくしゃりと撫でた。いつものように結われていなかったジュディスの長い髪が、風に揺られてふわりと舞う。

「精霊になってもバウルから今の記憶はなくならない。バウルからも、ジュディからも、思い出がなくなるわけじゃねぇんだ」
「?」
「それならまた、今みたいな友達になることだってできるさ」
「簡単に言ってくれるのね」
「バウルはジュディの大事な友達、なんだろ?」
「ええ、もちろんよ」

 ユーリはもう一度月に視線を向けた。ジュディスも続いて月を見つめる。相変わらず綺麗に輝く満月は、薄い光を放って辺りを照らしている。

「ま、どうせバウルはまだ精霊になれないんだ。覚悟ができてないならそれまでにゆっくり決めてけばいいさ」
「…そうね」

「ほら、バウルも心配してることだし、船に戻るぞ」
「ええ」

 そうして二人は月明かりを背に、ゆっくりと山を降りていった。



満月のした


――――――――――

もうゲーム中でジュディスがバウルのこと好きすぎてほんとかわいいです…!
ユリジュディがバウルについて話してるサブイベは全力でテンションあがりますね!


09/17





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