微睡みの中

 ふと、目を覚ます。
 あたりは少しずつ明るくなってはきていたけど、まだしんと静まりかえっている。

(……近い)

 そういえば、ここは静の大地の海岸で、モフモフ族が張ってくれたキャンプなんだった。キャンプでは当然人数分の寝床が確保できるはずもなく、必然的に男も女も関係なく雑魚寝をすることになる。
 仲間たちとは、別に今さらそれを恥ずかしがるような間柄でもないし、あたしを含めた誰一人としてそれを気にすることはなかったんだけど。

 すぐ目の前にはジェージェーの顔。
 寝返りをうったりして、お互いに少しずつ移動していたんだろう。こんな至近距離でジェージェーを見るのは初めてだ。

 寝呆けた瞳でそのまま静かに眠るジェージェーの顔をじっと見つめる。白い肌に長い睫毛。半開きの唇はうっすらと色付いている。
 本当に、見れば見るほど整った顔立ちだ。

 どれだけ時間がたったのか、遠くの空から海猫の鳴き声が聞こえてきた。そろそろ朝だ。
 ふと、穏やかな風が吹く。ジェージェーの髪がパラリと彼の顔にかかった。

 ジェージェーの髪は長くてさらさらしていて、今まで出会った人の中でもダントツに綺麗だ。
 しかし顔にかかれば流石に鬱陶しいだろう。払ってやろうと思って、そっと手を伸ばす。

「…なんか、女の子みたい」
「誰がですか?」

 思わずぼそりと本音を漏らしてしまった。
 そう思う余裕もなく、ジェージェーに伸ばしたあたしの腕は、ジェージェーによって掴まれていた。

「あ、」


 ジェージェーの手は、細いくせに意外と大きい。

 そんなどうでもいいことを考えてから、一拍遅れて今の状況を理解する。
 ジェージェーはいつもと同じような皮肉気な笑み…とはいかず。

「ジェージェー、…怒ってる?」
「別に、怒ってはいませんよ。例えどこかの誰かさんに寝顔をまじまじと観察されて、さらに不本意なことを言われたとしても」
「やっぱ怒ってんじゃんか〜」

 どうすれば機嫌を直してくれるだろう。
 ジェージェーが身長のことを気にしているのは知っている。それに、いくら中性的な顔立ちをしていたって男、なのだ。女の子みたいと言われれば誰でも怒るだろう。

「む〜……」

 ジェージェーの機嫌を直す方法を考えていたら、自然と先程まではなかった眠気に襲われる。駄目だ、ちゃんと謝らないと。

 すると、ジェージェーは今までずっと空中で握っていたあたしの腕をそっと下ろした。その流れがなんだか自然で、優しくて。
 あたしってば、昔から同年代には興味なかったハズなのにさ、なんでだろうね。

「ジェージェー、…大好きだよ」
「…!?」

 そして、あたしはそれからのことを覚えていない。ただ、ジェージェーが赤面して慌てている夢を見た。可愛い、って言ったら、また怒るかな?






「…ハァ」

 思わずため息が出る。目の前の黄色い少女は、先ほど爆弾発言をしたのにも関わらず、すぐに気持ちよさそうに寝息をたててしまった。

 はじめは目の前から視線を感じて、目を覚ました。薄く瞼を開いて見ると、何故か彼女がじーっとこちらを見てきていたのだ。
 彼女の意図が見えず、しかしただ寝呆けているだけだろうと思ってしばらく眠ったフリをしていたんだけど。

 女の子みたい、と言われて何故か腹が立った。自分が所謂 "男らしい" 顔や体格、性格をしていないことは自覚しているし、そんなことなら今までに何度か言われたこともあった。彼女の表情を見ても、悪気がなかったことは明白だ。

 なのに何故か、彼女に言われると無性に苛立つ。

「本当に、何なんでしょうね」

 空はすっかり明るくなっていたが、皆が起きる気配はない。もうしばらく寝ていようか、そう思ったけど、彼女の寝言か本気かもわからないあの言葉のせいで、顔が微かに火照って眠れない。

 当の本人は、気持ち良さそうに涎を垂らしているというのに。

「…ノーマさんらしいですね」

 彼女の短い髪をさらりと撫でてから、なんとか眠れないかと瞼を閉じた。



微睡みの中
(君の夢を見たんだ)


再08/26



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