ニコイチ

 特に理由はなくて、なんとなく気になっただけ。自分も含めて、仲間たちは総じて荷物が少ない。それほど遠出をすることもなく、荷物があっても邪魔になるだけだろうからそれは構わない。
 ただ、ノーマさんだけはいつもあの紫色のポーチを身につけている。彼女がポーチを肩にさげていない時なんて、それこそ本人が宿の自室で寛いでいる時にしか見たことがない。

 ここ最近日課のように僕の家にやってきてはだらだらと過ごしていくノーマさんは、やはりあのポーチを持っている。室内にいるから荷物はどこかに置いておく、という発想はどうやら彼女にはないらしい。
 ノーマさんは今、ごろごろと寝転がってポッポが持ってきた本を眺めていた。

「…ノーマさん」
「ん〜?」
「少し気になっていたんですけど、そのポーチには何が入っているんですか?」

 するとノーマさんは急にがばりと起き上がった。思わずビクッと体が跳ねる。いきなり何だと思って彼女の顔を見れば、かつてないくらいキラキラとした瞳で見つめられて、ああこれは早まったかな、と少し後悔した。

「よくぞ聞いてくれました!」
「やっぱいいです」
「なんでじゃ〜!自分から聞いたんだから、ちゃんと見なさいよ〜!」

 仕方ないから手にしていた仕事の資料を机に置いて横を向く。ノーマさんは既にポーチを開けて中身を床にばらまいていた。

 じゃらじゃらじゃら。かたいもの同士がぶつかる音が響く。小さいポーチだと思っていたけど、見た目に反してその中身はかなりのものだった。そしてそのほとんどはどれも似たり寄ったりなものばかり。

「これは……石?」
「キレイっしょ!」

 素人目から見ても明らかになんの価値もない、ただ綺麗なだけの石を自慢げに見せられる。中には本物の宝石もあったけど、そのほとんどはそこらへんに落ちていたのを拾ってきたようなものばかりだ。

「キレイなの見つけたら、こうやってとっとくの」
「…まるで犬の習性ですね」
「むき〜!犬ってなによ〜!」

 少し呆れて再び資料に手を伸ばそうとしたら、ふと石ころの山の中にひとつだけ違うものを見つけた。石よりは少し大きくて平べったい。それだけ薄紫色の柔らかい布で丁寧に包まれていた。

「これは…?」
「あ、それはね〜」

 彼女の細い指がゆっくりと布を開く。するとそこには、白くて綺麗なジェミニシェルがあった。

「この前ジェージェーに貰ったやつ!割れちゃったら大変だもんね〜」

 ノーマさんはそう言ってにっこりと笑った。これは一週間ほど前に彼女が「ジェミニシェルが欲しい」とあまりにも煩かったので、このままだとモフモフ族にも迷惑をかけかねないと思ってプレゼントしたものだ。

「あれ?そういえば、ジェージェーのは?」
「なくしました」
「ヒドッ!!」

 ジェミニシェルは二つで一対。もう片方はノーマさんから半ば無理やり渡されて、僕が持っている。

 あらためて仕事に戻ろうと机に向かう。ノーマさんもぶーぶー文句を言いながらポーチの中身を片付け出した。すると彼女が持っていたジェミニシェルが淡く光り始めた。思わず「あ、」と言葉が漏れる。光はどんどん強くなっていく。

「あ!」
「…」

 そしてノーマさんのジェミニシェルと同じ光が、僕のポケットからも発せられた。

「ち、ちょっと!やめてくださいよ!」
「い〜から!!」

 いきなりガシッと服を掴まれて、乱暴にポケットの中を探られる。無駄だと諦めつつも軽く身を捩って抵抗するも彼女はさらに身を乗り出してきた。

「ジェミニシェル!」
「……」

 結局、ポケットの中にあったジェミニシェルは見つかってしまった。色、形、光。そのすべてが彼女のものと同じ。ノーマさんの持っているものと対になるジェミニシェル。

「ジェージェーもちゃんと持ってんじゃん」
「ポケットにいれたまま忘れてました」
「素直じゃないな〜」

 見つかったらからかわれることくらいわかっていたんだけど。こんなことなら部屋に置いてくればよかった。
 ノーマさんが一対のジェミニシェルをカチャカチャと弄ぶ。お互いに光るそれは、まるでこれで一つの物だというようにぴったりと合わさった。


ニコイチ




――――――――――

タイトル適当すぎたけどジェミニシェルのことです…w


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