◎ 黄色い向日葵の季節はもうすぐだ!
街の端にあるためか、このあたりは人通りが少ない。しかし物寂しい感じがしないのは、やわらかな日の光で溢れているからだろう。ほどよく暖かい日差しの中、カエルの鳴く声が聞こえる。
石段を上っていけば、墓地がある。その一番右の奥に、見慣れた黄色い背中を発見する。
この場に長居するつもりはないので、墓地の入り口から大声で呼び掛けた。
「ノーマさん!」
「お、ジェージェーじゃん。どったの〜?」
「僕を呼んだのはノーマさんでしょう? 宿に行ったら、墓地にいるとザマランさんが教えてくれましたよ」
「あ、そ〜だった!」
約束をしたのはつい昨日のことだった筈なのだが、能天気な彼女はすっかり忘れていたらしい。
「いや〜、ごめんごめん。おまたせ!」
ノーマさんは小走りで僕のところへ来る。さっきまでノーマさんがいた、スヴェンさんの墓石を見ると、そこには黄色い花が供えられていた。
「花を供えに来ていたんですね」
「そ〜そ〜、向日葵! まだちょっと早いんだけどね」
「もう少ししたら、花屋でなくても見られますよ」
「うん、そだね」
通常より小さい種のそれは、花屋で頼んだのだろう、可愛らしい紙で束ねられている。
墓地には似つかわしくないが、なんともノーマさんらしくて思わず笑ってしまった。
「それじゃ、行くわよ。ジェージェー! いざトレジャーハントへ!」
「はいはい」
一人で盛り上がるノーマさんだけど、そんな彼女が可愛い、だなんて思ってしまうのだから、僕もそろそろ末期なのかもしれない。
ノーマさんは最後に墓地に振り返って、叫びながら大きく手を振った。
「んじゃ、いってきます、ししょー!」
そうして彼女は「あた〜しは〜 すご〜腕〜 トレジャーハンター!」といつもの歌をうたいながら石段を駆け下りていく。
彼女のノリについていけずに立っていると、ノーマさんが石段の下から口を尖らせた。
「ちょっとジェージェー! 早くしてよね〜」
「今行きますよ」
いつもより気分が爽快なのは、きっとこの天気のおかげだろう。そういうことにしておいて、僕も軽快に石段を下る。
首のリングにつけた黄色い鈴が、ちりん、と軽やかに鳴った。
黄色い向日葵の季節はもうすぐだ!
黄色い花と黄色い鈴と、黄色いあの子
――――――――――
title : 電子レンジ
再11/21
← →
back