とあるジャックオランタンの陰謀

 かぼちゃとホタテのパイに、かぼちゃ入りホタテスープ。様々な料理が食卓に並び、あたたかい湯気が部屋の中を満たす。

 さあ食べようと全員が机についたところで、コンコン、と控えめに扉を叩く小さな音が響いた。

「僕が出るよ」

 キュッポ達にそう言ってから扉の方へ向かう。ガチャリとノブを回して扉を空けると──

「「トリックオアトリート!!」」

 そこには大きなかぼちゃと、無駄に縦長い白い物体があった。

 またこんなくだらないことを。そう思いつつ、小さく溜息をつく。

「一体何をしているんですか? ノーマさんにモーゼスさん」

 するとノーマさんは頭からかぼちゃを取り、モーゼスさんはずるりと白い布を脱いで不思議そうな顔をした。

「あれ? なんでわかったの?」
「つまらんやつじゃのう」
「僕の知り合いに、こんな馬鹿なことをする人はあなた達しかいませんから」

 呆れてそう指摘してやれば、ノーマさんはなにお〜う! といつものように両手を振り回して怒っていた。

「まあいいわ。そんなことよりジェージェー、トリックオアトリート!」
「おお、ほうじゃほうじゃ。ジェー坊、トリックオアトリート!」
「はあ? 何を言っているんですか」

 懲りずにトリックオアトリートと手を伸ばして迫ってくる二人に呆れてその手を振り払う。

「なんじゃ、ジェー坊知らんのか? トリックオアトリートっちゅうんは "お菓子くれなきゃいたずらするぞ" っちゅう意味じゃ!」
「それくらい知ってますよ。というかモーゼスさんに教えられるとやけに腹が立ちますね」
「それならさっさとお菓子よこしなさいよ〜!」
「そんなものありませんよ!」

 お菓子なんて普段食べないし、そんなもの置いてあるわけがない。この二人はイベント事にうるさいから何かあるだろうと思っていたけど、日中何も行動がなかったから油断していた。まさか夕飯事に来るなんて。

「だいたいモーゼスさん、あなた一応僕より年上でしょう? どうして僕がお菓子をあげないといけないんですか」
「ハロウィンに年齢なんて関係ないわい」
「………」

 まあ、確かにそうなんだけど。なんだか釈然としない。

「で、お菓子ないの?」
「だからそう言っているでしょう」

 普段よりしつこく聞いてくるノーマさんに違和感を感じつつ、事実を述べる。するとノーマさんとモーゼスさんは顔を見合わせてニヤニヤと笑った。
 ああ、嫌な予感しかしない。

「ふっふ〜ん。ジェージェー、お菓子がないなら……いたずらだ〜!! モーすけ!」
「オウ! 準備万端じゃ、シャボン娘!」

 そう言ってモーゼスさんが取り出したのは、黒いカチューシャ。何か変な三角形がふたつついている。まさか、

「それは…」
「ジェージェーには黒猫で〜す! さ、早くつけて、行くわよ!」
「なんで僕がそんなもの…! だいたい、行くってどこに!」
「なんでって、ジェージェーに対するいたずらに決まってるじゃん」
「どこにって、そんなのウェルテス以外にどこがあるんじゃ?」
「なんのために!?」
「もちろん、お菓子を貰いに行くために決まっとるじゃろ」

 さも当然といった様子で言い切る二人にイライラする。そうしている間にもゆらりゆらりと二人に迫られる。モーゼスさんの持つカチューシャに気を取られている内に、ノーマさんにガシッと両腕を押さえられた。

「さあ、観念しなさい!」
「う…うわああああああ!!!!」



***



「………」
「お〜、いいじゃん!」
「似合っとるのう」
「…そうですか」

 ハアー、と深い溜息をつく。例のカチューシャは頭に付けられて、簡単に外れないようご丁寧にも髪の毛と一緒に編みこまれている。

「そんじゃ、さっそく行きますか〜! キュッちん達、ジェージェー借りてくよ〜!」
「いってらっしゃいキュー!」
「用事が終わったら、みなさんもご飯を食べていくといいキュ!」
「食事はまだたくさんあるキュ〜」
「お、ええのう! さっさと行って戻ってくるとしようかの」

 そんな会話を交わすなり、抵抗する間もなくノーマさんとモーゼスさんにずるずると引きずられていく。というか、キュッポ達も止めてくれればよかったのに。

 僕はもう一度ハア、と溜息をついた。




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