虹の上のコンサート

 今の遺跡船は驚くほど平和で、メルネスやら黒い霧やら言っていたあの時からまだ半年も経ってないというのに、それが随分昔のことのような感じがする。
 もちろん水面下では、いまだにあの頃のことを引きずって国とかが動いてるんだろうけど、そんなのは大人の事情。子供のあたし達にはなんの関係もないし。あ、でも大人である以前にこの街の保安官であるウィルッちにはちょっとあるかも。

 あたしはあれからもずっと宿に泊まっていて、たまに仲間達にあったりもする。けど、やっぱりみんなで集まるってことは少なくなった(残念って言ったら怒られるかな?)。

 だからたまにみんなで集まる時はすごく楽しみだ。そんなわけで、あたしは愛用の紫色のポシェットにストローやシャボン液、大切な財布とか必要なものをつめて、ウィルッちの家に向かった。


「は〜い、みんな元気〜?」

 そう言ってウィルッちの家のリビングの戸を開けると、もうセネセネとリッちゃん以外のみんなが揃っていた。モーすけに負けるなんて、ちょっと悔しい。

「セネセネは? また寝坊?」
「ああ。今シャーリィが起こしに行ってくれている」
「セの字も相変わらずじゃの」

 ウィルッちの返答を聞いて(なぜか偉そうなモーすけは放置)、クーにこっそり耳打ちする。

「クーが行かなくてよかったわけ?」
「わっ…私が来た時には、もうシャーリィが行っていたんだ」
「なるほど〜。出遅れたね」

 赤くなりながら慌てたように返してくるクーを見て、乙女だね〜なんて思ったり。とりあえずこの調子だとリッちゃんもクーも、これといった進展はないみたい。

「シャーリィさんとセネルさんも、来たみたいですよ」

 ジェージェーがそう言うのと同時に扉が開いた。そこにはやっぱり、リッちゃんとセネセネが。

「なんだ、また俺が最後かよ…」

 そうぼやくセネセネはなんだかまだ眠そうだ。きっとリッちゃんに叩き起こされたんだろうな。
 そういえば、今日はリッちゃんが行ったみたいだけど次の "セネセネ起こし当番" は誰だっけ?

「ヒョオォォォォウ! セの字も来たことじゃし、宴じゃ!!」
「モーゼス、あまり暴れ回るんじゃない!」

 たぶん先にクーたちが作っていたんであろう料理も机に運んで、家中を走りだしたモーすけにウィルッちが鉄拳を落として、準備完了。さぁ騒ぐぞ!って時に、リッちゃんが窓の外を見て呟いた。

「でも、こんなにいい天気なのに家の中にいるのももったいないですね」
「……」

 机の上の料理を確認する。サンドウィッチにクレープ。パンがメインで他にもちょっとした料理がちらほら。でもどれも弁当箱に詰めて持ち運べそう。よし、

「予定変更〜! ピクニックしよう!」
「ピクニック? どこへ行くんだ?」
「あ…」

 リッちゃんの言葉で思いついたはいいものの、セネセネに指摘されて場所をぜんぜん考えていなかったことに気付く。

「眺めがいい場所、はどうだろう」
「クー、ピクニック賛成してくれるの?」
「まぁ、確かに今日はピクニック日和だしな」
「でも、あそこは少し遠すぎませんか?」
「ほうじゃのう…。静の大地はどうじゃ?」
「ん〜、あそこもきれいだけど、ちょっと殺風景すぎない?」
「輝きの泉はどうだ?」
「お兄ちゃん、そこは改めてピクニック、って行くようなところじゃない気がしない?」
「言われてみれば…。今度は近すぎるか」

 みんなピクニック自体には賛成みたいだけど、なかなか場所が決まらない。

「そういえば、今までピクニックをしにみんなで出かけたことなんて、一回もなかったよね〜」
「うむ、そういえばそうだったな」
「でも、なんか妙に "ピクニック" って言葉に聞き覚えがあるんじゃが…」
「グリューネさんがいたからでしょう」
「グー姉さんにかかれば、いつでもどこでもピクニックだもんね〜」

 グー姉さんがいなくなってから、もうこんなに時間がたつんだな〜、なんて。はからずもグー姉さんの話題が出ちゃったもんだから、心なしか雰囲気がしんみりした気がする。
 今はピクニック。せっかくみんなで集まったんだから。でも、やっぱり、グー姉さんに会いたいよ…


「あ、そっか」
「どうした、ノーマ?」
「ウィルッち、よくぞ聞いてくれました! みんな、ピクニックの場所決まったよ!

望海の祭壇へ行こう!」




back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -