僕たちは空を飛べないし、星を掴むこともできない

 きらきらと輝く星空の下、セネルは墓地でただただ立っていた。他のものよりはまだ比較的新しい墓石に、祈ることもせず話しかけることもせず、なにも考えずにただぼーっと眺めているだけ。なんだか全然眠れなくて、少し風にあたりたくなって散歩していたら自然と足がここに向いていたのだ。

 そこでふと、階段をのぼってくる小さな足音に気付く。ぴくりと反応してそちらの方に目をやると、そこにはシャーリィが立っていた。

「あ、お兄ちゃん…」
「シャーリィ…、どうしてここに?」
「なんだか眠れなくて」
「そうか」

 俺と同じだな、なんて笑ってみせたセネルにシャーリィは複雑そうな笑みを返すが、セネルはそれに気付いていないようだった。

「こうして二人でここに来るのも、久しぶりだな」

 ここ最近セネルはウィルの保安官としての仕事を手伝っているし、シャーリィは外交官として水の民と陸の民との間で様々な条約を結ぼうと駆けずり回っている。お互い多忙な日々で、たまに仲間で集まると言っても二人きりになる機会はすっかり減った。

 セネルが墓に向かってひどく優しく微笑んだのを見て、シャーリィは意を決して口を開いた。

「お兄ちゃんは……まだ、お姉ちゃんのことが好きなの?」
「シャーリィ?」

 突然の問いかけに驚いてシャーリィを見返すも、その真剣な表情を見てまた驚いた。そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ステラのことは…確かに、好きだった。ステラは俺の恩人で、俺もステラを誰よりも護りたいと思ってた」
「………」

 シャーリィは目線を落としてぎゅっと唇を噛みしめた。わかっていた筈だ、彼がどれほどあの人のことを思っていたかなんて。ずっと一番近くで見てきたんだから。三年前から、ずっと。

「ステラのことは……少しも後悔していない、って言ったら嘘になるけど、でも、今はシャーリィがいる」
「……?」

 シャーリィが顔をあげると、セネルは微笑んでいた。すごく、優しい笑顔。今までずっとステラに向いていた、何度も何度も、その十分の一のやさしさでも自分に向けてほしいと願っていた、彼女がなによりも欲しかった笑顔。妹に向ける笑顔じゃなく、ステラの面影に向ける笑顔じゃなく、ただ、シャーリィだけに向けられた微笑み。

 ぽろりと一筋、涙が流れた。

「シャーリィ? どうした、どこか痛むのか?」
「ち、が……違う、の……」

 泣いちゃだめ。こんなところで泣いても、お兄ちゃんを困らせるだけでしょう。いくらそう思っても、涙は止まるどころか二筋三筋、次から次へとぽろぽろと流れていく。

「う、うぅ……うぇ…お兄ちゃん……」
「大丈夫か、シャーリィ?」
「うん…うん……。怖かった、の。お兄ちゃんが、ふわふわと、……今にもお姉ちゃんのところへ、飛んでいっちゃいそうで……」

 ぽろぽろ、ぽろぽろぽろ。涙と一緒に本音が流れ落ちていく。ずっと不安だった。お姉ちゃんが死んでからのお兄ちゃんは、何をするでもお姉ちゃんを追っていて…。お姉ちゃんに続いて、お兄ちゃんまでいなくなっちゃうんじゃないかって、ずっと怖かった。

 なおも涙を流すシャーリィに、セネルは苦笑してシャーリィの柔らかい髪をぽんぽんと撫でた。

「俺は飛べないよ。それに…、もし飛べたとしても、絶対にシャーリィを置いていったりなんてしないさ」

 その言葉を聞いて、今よりもっと、涙が溢れた。




(だったら君とふたりで星を見上げよう)



――――――――――

title : 空を飛ぶ5つの方法

とりあえず星系のお題を見たらまっさきにセネステで考えちゃいます(笑)

でもなんだかこのお題はセネステというか、セネルがステラをあきらめる感じかなぁって思いました。
ステラはいなくなっちゃったけど、その代わり今いる大切なひとに気付く、みたいな!

だからそんな感じのセネシャリになってればいいなぁ


09/17



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