溶けたアイスは元通りになんてならない。

そんなことも理解できないくらい、馬鹿だったの。




見慣れた文字の羅列に、幾度となく心を揺らされる私は心底馬鹿だ、と自分でも思う。

「…じゃあ先に帰ってるね、っと」

「何ー?また彼氏さんと別々で帰るの?そろそろ自然消滅も近い?」

そんなことないからー、なんてけらけら笑いながら、送信完了と書かれた画面を見つめる。

あーあ、もう2年も続いてたんだけどなあ。

最近よく聞く帰り道の綺麗なソプラノはどうやら、私の優柔不断さに憤ってるみたいだった。

「さっさと別れちゃえばいいのに」

「私も思ってる。けどやっぱりメールとか電話で言うのはなんかなあって思うし、そして全然会えないし。っていうのはただの言い訳なんだけどね。どうせ会っても言えないよ」

早口で捲くし立てて、近くに迫っていた玄関まで小走りで行く。

「じゃあね。また明日!」

「ちょっと」

バタン。閉じた瞬間、思いのほか暗くなって誰もいないことに気づいた。まったく、こんなに暑いってのに、あいつはいつまで外ではしゃいでるつもりなんだか。私にはどうにも理解できそうにない。

「さっさと別れる、ねえ…」

じっくり煮詰められて、暗いっていうのにじめじめと蒸し暑い家の中でアイスを探し出してビリッと袋を破く。

私だって、あんな彼女がいると公言しているのも拘らず堂々といちゃこらしやがったりするようなチャラ男はごめんだと言いたい。

今週だけであいつともう1人の女子がキスしているのを何度見たことか。完全に隠れる気がない。そしてそのお相手も同じ人は二度と見ないのだから大したものだ。刺されてしまえ。

だからといって思いっきり平手打ちでも何でもしてしまえないのは、所謂惚れた弱味なのかそれとも気弱なだけなのか。

「つめたっ」

手に、体に悪そうな色の液がたれてしまった。拭いてもなんだかちょっとべとべとして気持ち悪い。えいっ、と一気に残りのアイスを口に含むととんでもなく冷たかった。

「うおおお…」

ぱくぱくと金魚みたいに口を開閉させて冷気を逃がそうとしたけど、どうにも逃れてくれない。暑いからって口だけ冷たくても意味ないってば。

「あーもうっ、メールでもなんでもいい!」

思いっきりアイスの棒を投げたら、ゴミ箱に綺麗に入った。よっしゃ。

その勢いのままスマホを手に取ってメール画面を開く。こういうのはノリって言うもんね。言うよね。きっと。


どうせ、両想いみたいな片想いだって、焦がれるような思い出だって、褪せてしまえば全部同じようなものなの。


捨ててしまったあたり棒が、小さく音を立てた。


暑さと一緒に捨ててしまえ
未練なんて、無いと言えば同じなの。



暑さと一緒に捨ててしまえ/結芽


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