「ねえ、つーちゃん。私も高校生だから彼氏とかできちゃうのかな!?」
下ろしたての制服に身を包んだ私は一緒に登校している幼馴染の司に問いかけた。
「えっ、深夜に課題終わらないって電話かけてきたり、何もないところでコケて子供っぽいパンツ晒すような葉月を好きになってくれる心の広い人がいたら出来るんじゃない?」
つーちゃんは少しびっくりした様な顔をした後容赦なく私の過去の恥ずかしい体験を思い出させる。
「つーちゃんってそういうところ容赦ないからきらーい」
高校生の癖に頬を膨らませて拗ねる私を見てつーちゃんは謝りながら笑った。


入学式も終わりクラス発表がされた。見事につーちゃんと私は同じクラスだった。
これが腐れ縁なのだろう。
周りの子達は恋人や友達とクラスが離れたと言って嘆いている。
クラスに入るなり毎年と同じようにクラスの女の子の視線がつーちゃんに向けられる。
つーちゃんはハーフなので顔が綺麗に整っていて髪の毛も色素が薄いほうだ。
どこぞの少女漫画のヒーローかと思う。
めちゃくちゃモテるつーちゃんなのに何故か女の子と遊びに行かない。ク
ラスメイトや友達と青春を謳歌してこその花の高校生だと思うけど。


「おはよう。」
玄関の郵便受けを確認していると。
つーちゃんが毎日のように迎えに来てくれた。
最初は寝坊して遅刻を繰り返して学校に行きたくないと駄々をこねていた私を起こしに来たのがきっかけ。
でもそれが毎日のように続いて今では日課となっている。
「おはよう、つーちゃん。いくら春でも冷えるね。」
「そうだね。やっぱり暖かくなるまでもうちょっと時間かかるかな。」
「そうだつーちゃん。部活決めた?やっぱり弓道続ける?」
「どうだろう。まだ全然考えてないや。」
こんな日常会話をしているとあっという間に学校に着く。
「彼氏できないかなあ。」
また昨日と同じようにつーちゃんに問いかける。
でもつーちゃんは笑うだけで何も言ってくれない。
「葉月に彼氏はまだいいよ。」
つーちゃんは寂しそうな笑顔を見せた。
つーちゃんの笑顔なんて小さい時から見てきたけどこんな顔は初めてかもしれない。
少し新鮮だ。



新しくできた友達千夏ちゃん、深月ちゃん、春菜ちゃん。
千夏ちゃんは最近好きな人ができたと言ってはしゃいでいる。

一方私は新入生テストで中学よりも順位が落ちていて肩を落としていた。
今日は千夏ちゃん達に誘われて寄り道をすることになった。
中学生の頃は校則が厳しくて寄り道すら許されなかった。
こういうことを友達とできることは本当に高校生になれたという実感が湧くのだった。
コーヒーなんて初めて飲む。苦くてシロップを2個も入れた。性格も舌もおこちゃまのまんまだ。
「恋って苦いよね。コーヒーみたい。」
千夏ちゃんはカップを眺めながら少しだけ笑った。少し大人っぽかった。




「つーちゃん。恋って苦いんだね。」
「どうしたの急に。」
「千夏ちゃんが言ってたんだ。私まだそういうのよく分かんない。」
「そうだね。苦いね。」
「え?」
「俺は苦い思いいっぱいしてきたよ。」
斜めを向いてつーちゃんはそういった。
「じゃあ。つーちゃんは恋したことあるの?」
私からの質問につーちゃんは少し口を開いてまた閉じる。じれったい。
「うん、葉月にね。」
目を見開いた。つーちゃんが恋をしたことがある。私に…..
いやいや、つーちゃんのことだからきっと私をおちょくってるに違いない。
「おちょくるのもいい加減にしないと。」
「本気だから考えといて。」
そう言ってつーちゃんは先に校門をくぐって行った。





つーちゃんは今まで兄妹みたいな存在だったのになあ。
そんなこと考えてると
「ねえ、葉月。ちょっといいかな」
少し俯いた千夏ちゃんが声をかけてきた。
「千夏ちゃん。どしたの?」
私は顔を上げて笑って見せた。千夏ちゃんも口角をあげていたが目は笑っていなかった。



少しカビ臭い匂いがする。旧校舎に入る。
「ねえ、葉月。私好きな人がいるって前に言ったじゃん。」
私はドキっとした。漫画でしか見たことがない恋バナだ。
「え、あ、うん。言ってたね」
私と千夏ちゃんの間に少し間が空いた。



「私の好きな人って司くんなんだよね。」



千夏ちゃんは肩を震わせて泣き始めた
「いいなあ。葉月。」
「千夏ちゃん….。えっと…..」
千夏ちゃんのほうにすっと手を伸ばした。

パチン

「え…?」
私の伸ばした手を千夏ちゃんがはらった。呼吸が止まりそうだった。
「あ、ごめ….」
千夏ちゃんの顔はみるみる青ざめていった。
「ごめん。葉月私そんなつもりじゃ…..なく、て」
千夏ちゃんは言いかけると走り出した。
「千夏ちゃん!」
「ごめん!ごめん!ごめんなさい!!!」
千夏ちゃんの震えた声が旧校舎の廊下に響いた。



知らなかった。千夏ちゃんがつーちゃんのことが好きだって。
恋ってこんなに苦しいんだ。辛いんだ。友情まで崩れるくらいに。



「どうしたの葉月。目、赤い。」
一緒に帰るときつーちゃんが聞いてきた
「恋って苦いね。苦しいね。辛いね。大好きな人に振り向いてもらえないって。」
つーちゃんは少し驚いて
「誰の話?」
「千夏ちゃん。私気付けなかった。」
セーターの裾を掴んであふれる涙を拭う私の頭をつーちゃんはそっと撫でた。


次の日千夏ちゃんからメールが届いた

「ごめんね。」

たった一言なのに私と千夏ちゃんの間の何かが壊れたような気がした。

次の日千夏ちゃんは6校時になっても顔を見せなかった。

ほんの少しの罪悪感が生まれた。







最近学校であったこと。
楽しかったことははじめての寄り道したこと。
嬉しかったことは体育祭で白団が優勝できたこと。
嫌だったことはテストの成績が悪くてお母さんに怒られたこと。
悲しかったことは千夏ちゃんが学校にこなくったこと。







こんな辛い思いを皆は青春なんて言うんだ。

高校は青春だのなんだの憧れて笑っていた私がその青春のせいで涙を流している。

なんて笑える話だろう。学校が青春がこんなに辛いなんて思ったのは初めてだ。

でもそんな青春が輝いて見えるんだ。




bitter school/春沢リマ






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