「あの子、また一人だよ」
「無愛想だよね」
「このクラスの女子って大体もうグループできちゃってるから」

爪や髪を細い指で弄びながら私の友達はこう言った。今週だけでもこの話題は3回目だ。




4月になってクラス替えがあった。桜はもう散っていて、空には薄い水色が塗られていた。
クラスが変わったばかりの頃は誰もが毎日慣れないクラスで生活していたけど、4月も終わりに近づいた今ではそんな人達も新しいクラスに徐々に馴染みつつあった。

私も私で、あまりしゃべったことのない去年のクラスメイトぐらいしか知ってる人がいなかったけど、席の近かった女の子に声をかけてもらって仲良くなることができた。毎日、私を含めた5人でお弁当を囲っている。

向かい側に座った友達が口を開いた。
「あの子、ずっと休んでたし」

話題になっている彼女は、クラス替えの日から1週間ほど学校を休んでいた。いざ学校に来たらもうクラスの女の子はグループに分かれてしまっていたのだろう。

隣に座っている友達が言った。
「話しかけた時の態度がなあ…」

彼女は話しかけられてもうん、わかった、ありがとう、と一言しか返事をしない。そこに表情はないし、すぐに目を逸らされる。

と、誰かが言っていたような気がする。
目の前で友達が言ったことは今私がしっかり耳できいたことではあるけど、返事が素っ気ないことや目を逸らされるということは実際に私が見たことではない。




私が見た彼女は友達が言うような無愛想でさみしそうな子ではなく、笑顔がとてもかわいい美人さんだった。
廊下で青い空を見上げながら笑っていたその横顔は本当にきれいで思わず足を止めて見とれてしまった。

彼女がクラスメイトに話しかけようとした姿も見たことがあった。相手は気づかずに歩き去ってしまったけど、きっと彼女は友達がほしいのだろうと思う。

こうやって遠巻きに美人な彼女を見つめることしかできないのがすごくもどかしい。あの笑顔を見たあの日から、私はずっと話しかけたいと思っていたのに。自分のシャイな性格がその邪魔をする。
今の友達と話せているのも友達から話しかけてくれたおかげである。自分から話しかけることができない自分に腹立だしさを感じていた。

友達が彼女についてこうやってこそこそ話しているのも、胸がぎゅっとなって少し苦しいし、少し嫌だなと思ってしまう。
それを私は、言い出せないのだけれど。



最近は学校に居ても家に帰ってもこのことばかり考えてしまう。

もしかしたら、少し嫌われ気味の彼女に話しかけることで今の友達と距離を置かれるということがあるのかもしれない。
もしかしたら、彼女に話しかけても私とは友達になってくれないかもしれない。
もしかしたら、今の友達と彼女も仲良くなれるかもしれない。
もしかしたら、彼女がクラスのみんなと仲良くなれるかもしれない。

もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら。


色々な可能性を考えてはみるけど、でも答えは自分で動かないと出ないわけで。
シャイな性格を治したいと思っていたし、なによりもやっぱり彼女と話してみたいという気持ちの方が大きい。



少しの勇気を出せば、何かが変わるだろうか。


友達に、なれるだろうか。





次の日の朝、委員会の当番をするために早く起きたのはいいけれど思ったより早く学校に着いてしまった。
誰もいないと思って教室を覗いてみると、そこには黒板周りをきれいに掃除している例の彼女がいた。

時折、窓の外から聴こえてくる運動部の大きな声に目を向けて優しく、そっと微笑んでいた。

話しかけるなら今だ。



手伝おうか?早いね!よかったら友達になってください。

なんと声をかければいいのかわからない。緊張で汗が出てきた。




それでも。まずは、勇気を出さなくちゃ。


精いっぱい息を吸い込んだ。



「お、おはよう!」






桃色の彼女/滝

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -