大切なものほどわからなくなる。
「永瀬!お前理科の小テストどうしたんだー?いつもより点数悪かったぞ」
「え、まじすか・・・」
「今回そんなに難しかったか?」
「・・・そんなやばかったんですか」
彼に恋をした。
成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群と言われ続けた「みんなが憧れる自分」はきっと先生なんかに恋をしてしまうようなそんないけないことはしなかった。
でも「本当の自分」は、彼に恋をしてしまった。それはどうしようもなくて、ただただいけないこととはわかっているのに、やめられなかった。
「・・・そんなことより、花江先生彼女とはどうなんですか」
「な、生徒にはいえませーん。・・・って言いたいことなんだけど、永瀬にならいいか」
「みんなが憧れる自分」である限り、花江先生の知りたいことも聞ける。だけどその代り、この感情は先生にも友達にも親にも誰にも知られてはならない。
「プロポーズしたって言ってませんでしたっけ」
「そうなんだけどさあ・・・なんかよくわかんないんだよね。あんまし乗り気じゃないっていうか」
「・・・なんか気に障ること言ったんじゃないんですか」
彼女の名前はさちえさんというらしい。ポニーテルが特徴的なかわいらしい人だった。
高校時代の同級生で、花江先生から告白したらしい。
「そうなのかなああ・・・うーん」
「先生鈍感だから気づかないんじゃ・・・」
「えっ」
「・・・あ、いやもうすぐバレンタインですね」
「・・・そうだな」
「彼女さんからもらえたら、嫌いって可能性はないと思いますよ」
「なるほど!バレンタインにかけてみるかー」
先生にチョコをあげたら、どんな顔をするのかな。
きっと先生のことだから、わけがわからないまま受け取ってくれるんだろうな。
本当に、もう。
そのやさしさがいたいんです。
言ってしまったら変わる関係、だけどいい方向にはむかないから。
この先もずっと内緒で、困らせたりはしないから。好きでいさせてください。
なんて、かっこつけさせて。
「永瀬はきっと100個くらいチョコもらうんだろうなあ・・・いいよなモテる奴はー」
「そんなにもらいませんよ。てかモテませんって何回言ったら信じてくれるんですか」
「またまたー!謙遜しなくてたってわかってるって!」
「先生のほうがたくさんもらってるじゃないですか」
「えー、またそうやって話そらすー」
先生、好きです。
(チョコはあげたらもらってくれますか。)
先生、好きです。
(せめて端っこでいいから眼中にいれてくだだい。)
先生、好きです。
(1回でいいから下の名前で呼んでください。)
先生、好きです。
(そのやさしさがつらくるしい。)
―――――――ガチャッ
「花江先生、副校長が呼んでましたよ」
「お、石井。副会長も頼りがいがあるのお〜」
「なにキャラですか、それ。お急ぎみたいでしたよ」
「まじか、せんきゅ!じゃあ生徒会長と副会長がんばれよー」
石井は生徒会室から出ていった先生を一瞥してから、
「会長・・・泣いてます」
なんて言ってきた。
「えっ・・・うわ、ほんとだ、ださい」
「気づかなかったんですか、ばかじゃないんですか」
「石井はひどいなー」
「すみませんね、あなたの大好きな花江先生みたいにやさしくなくて」
「え」
「僕、好きな人のことはずっと目で追っちゃうタイプなんで」
大切な人ほど知りたいし仲良くなりたいけど。
そう思えば思うほど、空回りしちゃうし空気が悪くなっちゃうから。
あんまり急がず焦らず、ゆっくり浸食していくのが僕のモットーですなんて石井がいうから。
僕はまた涙がこぼれてしまった。
憧れの憧れはきっとしあわせ。
そう願いたい。
。End。
ポニーテール、憧れ/しら