「ねえねっ、今から質問するからさ、答えてよ。さ、はじめるよー」

カラ元気をとって付けたような自分の声が、やたらと自分の耳をクリアに届く。
昼休みという時間帯もあってか、教室にいる生徒は疎ら(マバラ)。

「え、突然なんだよ。」

軽く持ち上げた椅子を反転させて正面に見たソイツは、明らかに怪訝そうな顔でこっちを見て、素早く立ち上がろうと腰を上げている。

「まあいいじゃんいいじゃん、わたしとあんたの仲でしょー」とわたし自身、よくわからない理由をつけて強引に制服の袖を掴んで座らせれば、ソイツは無愛想な声で、どんな仲だよ、とため息をつき、「早めに終わらせろよな」渋々座った。

ワックスで固められたソイツの髪を見ると、無性に家にいるときのソイツの髪の毛を触りたくなる。あの、少しふわっとした髪質を。

「わーかってるって。じゃあ、アンタの好きな野菜、3つね。」

「…は?そんなこと?」

「そんなことってなにさ〜!いいから、質問に答えてよ。」

怪訝をカタチにしたような声。ソイツはわたしを見る。しかし、真っ直ぐとソイツの目を見れば再びため息をついて、呟いた。

「キャベツと、にんじんとスイカ…ってお前、そのくらい知ってんだろ」

「いいの、いいのー、って、え!?スイカって野菜じゃないでしょ!」

「野菜だ、馬鹿。」

更には、声大きすぎだ馬鹿、と頭を叩かれる。そんな馬鹿馬鹿言わなくたっていいじゃんか、軽く涙目でソイツを睨みつけたが、「次の質問」と軽く流された。

「うぅっ…いいもん、じゃあ2問目ね!」

まあ、例え涙目でもそうやって、さらりと流せるわたしもわたしなのかもしれない。

「えっとー、誕生日は?」

「またかよ、そんなの知って――」

「はいはい、いいから気にしないで答えなさ〜い。」

言葉を重ねれば、やっぱりため息をつくソイツ。いつもと違うことに気が付かれていることはわかっている。それでも、無理矢理でもなんでも、とにかく答えさせる。

「10月21日」

「おっけー、じゃあ3問目!好きな教科は〜?」

ブスッとしているソイツを余所に質問を続けた。

「体育、化学、数学T。Uは論外な。って前も言ったよな。」

「うんうん、そういや言ってたね。」

にっこりと笑って頷いたわたしを見るソイツの顔が怒りに似た感情を映した。

「ほら、前も言っただろ?もういい?めんどーなんだけど」

あ、やば、と思ったわたしを見下ろすように、ガタンとソイツが立ち上がったソイツ。だけど、わたしもめげずにソイツの袖を掴んで下にグイッと引っ張る。

「もー、アンタは我慢って言葉を知らないの〜?とりあえず、あと7問だからがんばれ!」

「はっ、7問もあんの?めんどっ」

とかいいながら、座ってくれるあたりが、変わらないよなあ。と、思い出すのは幼稚園から小学校、中学校、高校と、良く言えば幼馴染、悪く言えば腐れ縁であるソイツとの思い出(キオク)。
最低だと思った時期もあったけど、根は優しい。

「じゃあもうyesとnoでいいからさ。じゃあ、4問目。キャベツは生が好き?」

一瞬首をかしげたソイツは頷く。

「へぇ〜、じゃあ5問目ね。にんじんはグリルが好き?」

「もちろん」と、ソイツはやっぱり頷く。

「ん。じゃ、6問目!スイカは野菜?」

「ああ、ってさっき言っただろ。」

「あ、そうだっけ、気のせいじゃない?」

「気のせいじゃねーよ」軽く青筋を浮かべたソイツが拳に力を込めながら、もう一回叩かれたいのか、と睨んできたから「め、滅相もないっ!」大人しく首を振った。

「ふぅ…とりあえず、気を取り直して7問目!体育の中で一番好きなのって、サッカー?」

「あー…まあ走んのも好きだけど、一番ならサッカー。」

「へぇー、そういや、良く走ってたよね。真冬に雪の上で走って滑って転んで大泣きし―――」

「っ、ちょ、それは今言わなくていいっ!早く、次!いいから次!」

恥ずかしい記憶だったのか、あわあわと慌てるソイツが面白くてプッと吹き出せば、なんだよと睨まれ肩をすくめる。別に、その時の泣き顔超面白かったし、恥ずかしがらなくてもいいのに。って、それが恥ずかしいのか。
そう思ってもう一回吹き出すと、更に睨まれた。

「睨まないでよ〜、言う通り次聞くからさ。じゃあ…ってあれ、次何問目?」

「8だから。」

即答で答えたソイツ。しっかり覚えてるんじゃん、とニヤリと上がりそうになる口角を笑顔に変えて、続ける。

「お、ありがとー。じゃあ、8問目!わたしとの関係は、幼馴染?」

「…そう、じゃねえの?」

そう言って首をかしげるソイツ。やばい、その仕草可愛い。にやける。って、おちつけわたし。
ふぅっと上がりそうになった口角を堪える。腐れ縁って言われるよりは、幼馴染って言われた方が嬉しい。まあ、腐れ縁よりかは。だけどね。

「9問目は、まあ簡単だよ。何だと思う?」

「は?しらねーし。」

「うん、だよね〜。まあいいの、いいの。幼稚園の園長先生の名前は、田中先生である。Yes or No?」

「…なんでそこだけ英語なんだよ。しかも、やたらと発音良いし。」

「細かいことは気にしな〜い。わたしの母上の英語力舐めないでよね。ペッラペラなんだからね〜!」

「それは小母さんのことだろ?お前関係ねえじゃん。」

「うっ。ま、まあ。とりあえずyesかnoだよ!答えるのだ!」

「そうだけど…その目、怖いから。」

「怖いって失礼なっ!って、そんなことで怒ってたらキリないわ。それじゃあ、最後!

―――わたしが好きなのは、アンタでしょーか?」


ジッと、ソイツの目を真っ直ぐに見る。

「……は?」

スッときょとんな声を紡ぐソイツを、真っ直ぐに見る。しかし、先程とは違うソイツの反応。深くため息をついてめんどくさそうにわたしを見た。

「…なんだよ、俺。お前の暇つぶしに使われただけ?」

まじ、そういうのやめてくんね?そう言いながら立ち上がるソイツに続いて「ははっ、バレた?」と言いながら頭をかき、わたしも立ち上がった。

「バレバレだっつーの。やっぱおかしいと思ったわー」

「げっ、そんなバレてた?最悪っ!もっと上手くなんなきゃじゃん!」

「いや、それ以上は上手くなんなくていいって。また面倒なのに巻き込まれるの嫌だから。」

「え、それ何気にひどくない!?…あ、ちょっと耳貸してよ。」

「え?…ん。」

フッとソイツの耳に寄せて呟く。


最後の問題さ、案外本気だったりして。

もちろん、わたしが。



パッと教室を飛び出した。あの頃から変わらない優しいアンタを見ているわたしが変わってしまったことなんて、秘密だから。


秘密の恋と10の問い
だけどね、10問目の問題。yesがほしかったかな。

…fin.






秘密の恋と10の問い/かほ

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