シーブリーズのにおい。歓声。人が走る音___________

どれもこれも、私とは無縁のもの。
体育館の横で立ち止まった足をまた進める。


登校、授業、お昼、下校。これが私の毎日の生活なのだ。
周りの人達みたいに、放課後少し教室に残っておしゃべりとか部活とかほんとにどうでもいいと思っている。
だから、私は帰宅部を選んだ。厳しくないし、友達との熱い友情、助け合いとかいうどうでもいいものもない。


「ほら、ペース落ちてるよ!」
「もっと声出して!ちゃんと走る!」

どこかの部活が横を走っていった。

「めんどくさ…」

鞄を持ち直し、わきめもふらず門の方へと歩き出した。



「ふあーあ」

やば。昨日夜更かししすぎたかも。
でもしょうがないじゃん、新作のゲームが楽しすぎるのがいけないんだよ。



「おはようございまーす!はーいどうぞどうぞ」


なんだ、朝っぱらからうるさいな。校門の前で誰かがビラ配りをしているようだ。何か勧誘をしているらしい。
関わりたくないため通り過ぎようとすると、腕をがっと掴まれた。

「ねえね、君部活何??」

「はい?」

思いっきり迷惑そうな顔をして去ろうとするが、離してくれない。こいつ以外と力強いな。

「だから、部活何!?」

「…無所属ですが」

「えっまじ!?やった!これで俺、奏に怒られない!!!」

「ちょ…なに?何の話?わけわかんな「おいこら!!!!」


私の言葉をさえぎって、向こうから先生が走ってきた。

「そこで何してんだ!ビラ配りしているというのはお前らか!?!?!?」

「わー来ちゃった」

「来ちゃったじゃないでしょ!何気に私巻き込まれてるじゃん!!」

「よし、逃げよう!」

するとその男は私の手首を掴み、走り出した。先生の怒鳴り声がどんどん小さくなっていく。
どうして私、こんなことになってんの________!?




「はあ、なんとか逃げきれたな」

「ふざ、けんじゃ、ないわよ。こんな、ことに巻き、込んどいて」

しばらくまともに運動していなかったため、少し走っただけでものすごく息が上がってしまった。
今私達は空き教室にひそんでいる。

「でさ、あのおっさんに邪魔されたけど、君、無所属なんだよね!!」

「そう、だけど」

「俺、橋谷健っていうんだ!ねえ君、新しく部活入らない!?俺部活の勧誘してたんだ!」

「入るわけないでしょ。ていうか、何?私はそんな勧誘をされるためだけにこんな面倒事に巻き込まれたの?」

「まあまあ、それは謝るよ。でもさ、この部活、他のとこと違って絶対楽しいと思うんだよ!ね、ね、来るだけでいいからさ!ちょっと見て帰ってよ!!」

「いやに決まって「さあ行こう!」

なっんっでっこいつはこんなに力が強いのよ!!!!!私は引きずられるようにして連れて行かれた。



「着いたよ!さー入った入った」

地下の1番奥の部屋だ。北に面しているため光も入らず、部屋から漏れ出るわずかな光が余計明るく見えた。

「…失礼します。
 ほんとに見るだけだからね!すぐ帰らせてもらうから!!」

「はいはい」


しかし、中に入って唖然とした。テレビ、漫画、ボードゲーム、ラジコン。
その他もろもろ遊び道具が大量に散乱している。そしてその中にぽつんとあるソファに誰かが座っていた。

「あっ奏!見つけた!連れてきたよ!」

橋谷とかいうやつがその男に声をかけた。奏と呼ばれた男が立ち上がって何か言おうとしたが、私が先に口を開いた。

「何よこの部屋!ふざけないで、おもちゃ部屋じゃない!!部活でも何でもない!!帰る!」
きびすをかえし、部屋を出ようとすると、

「あ、だめだよ君。勝手に帰ったら」
奏と呼ばれていた人がゆっくりこっちへ歩いてきた。
「この部屋に入った人は署名して帰らなきゃいけない決まりになってんだよ。だから帰るなら署名してから帰れ」

「…分かりました」

差し出された紙を特に見もせずに署名すると、

「やった!やったぜ奏!部員一人ゲット!!!!」

「ああ」

「は?私は入らないって言ってるでしょ。何、いっ、て…」

たった今署名した紙をまじまじと見てみる。
……ん?これ、もしかして…

「入部届けえ!?」

「おめでとう、えっと…月浦美穂さん?君は今から我が部の一員だよ」

「!?!?!?だっ…だましたのね!!!!!!!!!!」

「人聞きわるいな、月浦ちゃん。だましてはいないよ」

む…むかつく!むかつく!言いようのない怒りがこみあげる。

「かっ返して!私は入らない!」

入部届けを取り上げようとするが、奏とかいうやつの背が高くて届かない。
「だけどさ、部活内容も知らないでそんなにこばむのもおかしくない」

「内容も教えずに無理やり入れる方がどうかしてる!」

私達がとっくみあっていると、

「じゃあさ、月浦ちゃん。体験入部するっていうのはどう?」

「体験入部?」

「そう。明日1日体験してみて、それで入るかどうか決めなよ!まあ楽しすぎて出たくなくなるだろうけど」

「ああ、いいかもな」

「ちょ…っ」

「じゃあそういうことで!放課後ここに集合ね!」

「待ってよ!そもそもここは何の部なの!?」

「あれ、言ってなかったか。ここはな、青春部だ!」

せ、青春部ーーーーーーーー!?




『青春部は、その名のとおり、部員皆で色々なことして青春するんだ。外に行くこともあれば中で過ごすこともある。来る日は自由だ。部員は今9人いるけど、10人揃わないと部として認められないんだ。だから新入部員を探してた。』

『それで俺が月浦ちゃん見つけたってわけ』

『ちなみに、俺は部長の高橋奏。よろしく』


あ、頭がついていかない…部活なんてくそくらえと思っていた矢先、こんなことになるなんて…
でも放課後行きたくなくても連れて行かれるのだろう。

「今日一日だけだもんね。今日がおわればこの部活ともおさらばだし」
私は、大きなため息をついた。



「…こんにちは」
ゆっくりとドアを開けて、中をそっと見てみると、

「「「いらっしゃーい!」」」

…あれ?なんかいっぱいいる。

「今日は月浦ちゃんのために皆集まってくれたんだよ!」

「そう、なんだ」

「今日は月浦のために外で活動することにした。よし、行こう」

皆がバラバラに返事して高橋についていく。あわてて私も後について外へ出た。



校庭を横切っていると、

「あっあんなとこにホースがある!」
橋谷が水飲み場にあるホースを取って一気蛇口をひねった。

勢いよく水が噴き出して皆を濡らす。

わあわあ言いながら皆と走り回った。全身びしょ濡れだ。
逃げ回っているうちに気が付いたら笑っていた。本当に自然に。自分でも驚くくらいに。


…なんでだろう。いつもはこんなのむかつくのに。皆とこんなことするの、時間の無駄だって思うのに。
楽しいって思ってしまう自分がいる。
「だめ、なんだよ…」

光って流れ落ちる水の粒を、そっと、握りしめた。










「あー疲れた」
絞った皆の服からびしゃびしゃと水が溢れ出る。

「はいタオル」
「あ、ありがと…」
気がつくと高橋が隣に居た。

「はは、びしょ濡れ。」
「…ねえ。いつも、部活はこんなことしてるの?」
「え?うーんどうだろ。今日はいつもより皆テンション高いかも。月浦が来てくれたから」
「…そんな、いいの?喜んでくれるの?私が…ここにいて」
最後の言葉が少し消えかかる。



「嬉しいに決まってるだろ」
タオルで拭く手を止めて顔を上げる。高橋と目があった。高橋はほほえんで、私の頭に手をのせた。

私はうつむいて、タオルの裾を握りしめた。



その後は学校から出て色々な所へ行った。ゲームセンター、公園、アイス屋さん、商店街。
どこもかしこもいつも一人で通る帰り道。

皆で歩いたら、いつもと全然、変わって見えた。
景色が眩しい。キラキラして、まるで世界のもの全て反射しているみたい。アスファルトも、電柱も、空の色も。
全てを吸収して光を出している。



・・・変だな。

ふいに、涙がこぼれそうになった。


















「あー楽しかった!」

皆次々と草むらに倒れる。


散々歩き回ってものすごく疲れてしまった。いつも全然歩いてなかったもんな。何か余計なことをするのが嫌で、いつも省エネ行動を選んでいた。
そう、誰か友達と話したり、遊んだりする、の、も・・・・・・


「はい、おつかれ」

高橋にほっぺたに何か冷たいものをべちっとつけられた。

「わっ!!・・・ミネラルウォーター?」

「やるよ」

「・・・ありがと」

両手で包み込んでほっぺたに当ててみた。冷たくて気持ちいい。これで、この部活と関わることもないんだろうな。

・・・でも、嬉しいはずなのに、これで終われるのに、すごく悲しいのはなんでなの・・・・?


そうだ、楽しかったからだ。楽しくて楽しくて、抜けるのが辛いんだ。私多分、この部活が好きなんだ。

「どう?この部活に入ってくれる?」

「はい、りたい・・・・・けど」

「けど?」

「やっぱダメだよ。私が入っても迷惑だし」

「何言ってんだよ。むしろ入ってほしいくらいだ。なんで月浦はそうネガティブなんだよ」

ははっと高橋は笑ったが、私の深刻な顔を見て驚いた顔をした。

「・・・どうした?」

どうしよう、話していいのかな。こんな話、したくないけど、この人には聞いてもらいたい。




「・・・あのね、私、自分で言うのもなんだけど、中学時代は運動もできて、勉強もできて、友達も多くて・・・今とは正反対だったの。だけどね、私親友がいて。その子にずっと勉強とか運動とか教えてもらってたのに、気が付いたら私が全部その子よりできるようになってたんだ。・・・多分嫉妬されたんだろうね。その子に『お前なんていらない』『いるだけで不愉快だ』とかなんだとか毎日言われるようになって。」

私はそこで息を吐いた。

「私、その子が大好きだったから、妬まれて言われてるって分かってたはずなのに、ぼろぼろに傷ついて。周りの人にどう思われてるのか考えたらいつしか人が皆怖くなっちゃって。それで人を避けるようになって、だんだん人と関わるのがめんどくさくなっちゃったんだ。」

「だけど今日久しぶりに誰かと遊んだり話したりしてすごく楽しかった。ありがとね。こんな私にやさしくしてくれて。部員稼ぎでも、嬉しい」


「部員稼ぎのために仲良くして遊んでたわけじゃねえよ!」

高橋が大きな声をあげた。

「ここにいる皆、お前に入ってほしいと思ってる。他の誰でもなく、お前にだ。迷惑だなんて思わない。不愉快だなんて思わない。」




涙がこぼれた。ぽつぽつと地面を濡らしていく。


「・・・私、入ってもいいの?いていいの?」

「ああ、もちろんだ」


ペットボトルから落ちた水滴が手を滑り落ちた。

私は立ち上がって叫んだ。





「月浦美帆!!!!!青春部入部希望!!!!!!!!!」








これから、私の青春が、始まる。





青い空の向こう/琥白

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