カキーン!と野球部の試合を校庭で行っている音がする。打ったのだろうか打たれたのだろうか。私はさみしい事に青春の音を聞きながら補習中だ。


「こら」


野球部の音がどうしても気になってそぉっと窓の外を覗き見ようとしたら怒られた。呆れたように声をかけてきたのはクラスで多分一番頭のいい正樹だ。勉強をしなくてもできてしまうらしい。むかつくやつだ。私だってそこそこ頭は悪くないはずなのにおかしい。


というか夏休みに自分の補習じゃないのに学校に来るとかよっぽど暇なんだろう。



「正樹くん。私はなんで貴重な16の夏にこんなところにいるんですか。」
「そりゃ、夏休み前のテストであんな点とったらなー?」
「…じゃあ、なんで補習が私一人なの」
「正確には一人じゃねぇな。みんなお前よりも早く終わってもう帰ったんだよ。」
「あああー」


呻き声をあげて机に突っ伏した。がごっと地味におデコをぶつけて痛い。


「え?なにそれ以外に理由
あんの?」
「あーそれはですねぇー」
「なになに?」
「う゛っ」
「頭は悪くないんだからさーあれだよなーやる気が足りないの?なんていうのかねー」
「はい…申し訳ございません…」
「うん。…じゃあ俺、職員室行って終了報告してくるからそれ終わらせとけ、そのプリントで最後だから。」


そうだっけ。コクっと素直に頷いて視線を落とした。見たら私の手元のプリントは最後の問題以外は答えが埋まっている。あれ、こんなにといたのか。


がんばれよーなんて言いながら教室を出て行く。いってらっしゃーいと送り出すと何を思ったのかちょっと戻ってきていってきまーすと言われた。律儀なやつだ。


あーがんばろ、それでさっさと帰ってアイスでも食べよう。


そう思ってペンを握り直した。








「終わったかー?」
「あ、おかえりー。」
「ただいまー」


正樹がまた教室に戻ってきた。終わった!と言うと何で偉そうなんだよとか笑われた。完全に馬鹿にされてる。


「やっと帰れる!」
「そうだなー俺もお前が最後だからこれでやっと帰れる」
「嫌味?」
「うん」
「うわー酷いっ」


悪びれもなく頷いたくせにうそうそなんて言ってまたケラケラ笑った。笑った顔は幼いなぁなんてちょっとだけ思った。


ごそごそと鞄にプリントやら筆記用具やらをしまい込むとなんでか私を待っていた正樹のところに向かった。あれ、なんで待っててくれてるんだろう。


2人で教室を出て昇降口を抜て校門出ててくてくとお互いの影を踏みあって歩いた。まだ日が高い。後頭部がジリジリとした。補習したとかいってもまだお昼すぎだ。暑い。暑すぎる。



それにしてもなんで私は正樹と一緒に歩いてるんだろうか。正樹の家はどっちだろう。同じ通学路なのか?確実に進んでる方は私の家の方向だ。何も考えてなかったけど、こっちに歩いてきていいのだろうか。


内容があるとはいえないような他愛もない会話をしながら突然に頭に過った考えがどうにも気になった。ちらちらと顔を伺ってしまうくらいには気になった。

「なに、顔見て」
「え、そんなに見てた?」
「うん、なに?」
「あーっと」
「なに」
「家どっち」
「なに突然」
「突然じゃないし、…だって、私はこっちだけどさぁ」
「あ、俺の家知らない感じ?」
「うん。知らない感じ」
「で、あれか、『正樹の家こっちじゃないかも!もしかして気使わせてる?』とか思ってるやつか」
「…大体あってる、けど、自分で言われるとうざい。腹立つ」
「ひっでーなーぁ」
「あーはいはい、ごめんね?」
「うっわ思ってないだろ、絶対」


けたけたと笑いながら文句を言ってきたけどそんなの無視だ。無視。


「えっと、で、俺の家?だっけ。」
「そう、それだ。」
「だいじょーぶ、俺もこっち」
「あ、そう?」
「うん、」
「でもさ、一緒に帰ることなくない?」


べつに仲が悪いとか話したことがないとか、嫌いとかそういうわけじゃない。普通に話せるしむしろ仲はいい方だ。


「女の子1人で帰らせられないから?」
「まだ明るいよ?」
「明るくても危険な人はいるよ」
「まじか」
「まじだ」


そーゆーもんかー心配してくれてんの?とからかうような口調で言うとまーねと普通にかえってきたからふぅんと受け流すことにした。


「なに、一緒にかえんの嫌なの」
「そうじゃないよ?」


なのになんでさみしそうで嬉しそうな顔をしているのだろうか、私は一緒に帰るの楽しいよ、楽しいんだよ。







「私、家これ。」
「おー!はうすか」
「うん」


ほーっと簡単の声を上げながら家をみて、ゆっくりこっちに目を向けるとじゃあばいばい!とにこにこ手を振ってきた。


なんだかどきっとしたじゃないか畜生。


「ばいばい!」
「ば、ばいばい」


それだけいうと家に入ろうとした。ちょっと名残惜しくてもっと話したかったなーなんて思ったり、違ったりだ。


「あのさ、」
「はい?」


突然に呼び止められてびくっとした。なんだ、確かにさみしいなーなんて思ってはいたけど!


「あーうーんと」
「ん?」
「あ、あれだよ、明日も補修あるからな!だよ」
「う゛…」


そうか、明日もか、うっわ。面倒なこと思い出したな…明日もさみしく青春を学校で教室で過ごすのか。


「だからっ、明日また俺も行くから、だから、」
「…」
「明日も一緒に頑張ろう?な?」
「…っ!…ん!」


なんだそれ、反則技か。なんだ、かっこいいじゃないか!不覚にもどきっとしたじゃないか!


それから本当にもう一回ばいばいと繰り返して家を離れて行った正樹が見えなくなると家に入ってただいま!と叫んだ。それからどうしたの、うるさいわねとか言ってる親を無視して階段を駆け上がって自分の部屋に飛び込んだ。



「うわああああ!」

ドアをばんっと勢い良くしめてベットにダイブした。服が多少きたないののんて気にしてられないくらいにドキドキしていたおかしい私じゃないみたいだ。


なんなんだろ、これは、心臓バックバックいってる。顔があっつい。



冷静になれと思うとでてくるのは「一緒に頑張ろう?」と言ったあいつの声と顔で。一緒にが嬉しかった自分がなんだかくすぐったくてムズムズして。


もう一度今度はまくらに顔を押し付けてからうわあああっと叫んだ。



たったのこれだけで明日が180度かわって楽しみになるんだから私も随分単純だ。とりあえずそんな青春も暑苦しく球を追いかけて汗と涙をともに流さないちっちゃい青春だけどいいかななんて思った。

内緒だけど。絶対誰にも言わないけど!





頭の上を練り歩く/かんな

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