「俺と茉央の好きってなんか違う気がする。なんていうか、茉央は俺のこと恋愛的な意味じゃなくて、幼馴染の意味での好きだったんじゃない?だからさ、別れたほうがいいと思うんだ」





付き合って1年と少し。これからも続くと思っていた明との関係は、その言葉でばっさりと打ち切られた。
彼が言ったとおり、わたし達は幼馴染だ。だけど、仲のよかった友達から恋愛に発展したんだから、好きって気持ちが偽りだったわけでは決してない。だけど、わたしは「別れたくない」って言えなかった。



「だからさ、要するにあんたの愛情が足りなかったんだって」

優雅に足を組んで飴を口の中へ含んだ友人の静花。眠そうな顔して、まるで興味も無さそうだ。
「…愛情は十分そそいだつもりです」
「つもりじゃだめでしょ。伝わってないじゃん。だからこういう結果になったんでしょ?」

静花は別にモテるわけじゃないし、今日も告白されてたけどそれはたまたまなわけでモテるわけではないし、3年付き合ってる彼氏がいるとかそんなん知ったこっちゃないっていうか嘘だって思ってるから。(勝手に)
恋愛が得意なわけでもなさそうなのに、言ってくる言葉がいちいち正しくて腹がたった。


わたしの元彼は、小学1年生のときにわたしが今住んでる団地に引っ越してきた。それからずっとクラスが同じで、中学も同じで、高校も自然と一緒になった。自然と、なんていってるけど、本当はわたしが一緒の高校に行きたくて、内緒で頑張って勉強して合格したのだ。
それは今でも秘密だけど、明は何も気にしていない様子だった。高校1年の秋に告白をして、見事OKをもらって、本当に嬉しくて泣き泣き静花に報告をした。今までデートだったしたし、手をつないだりしたし、キスだってした。
ずっと好きで今でも好きで、それでもなんでわたしの好きはそんな幼馴染の友人としての好きだなんて勘違いされてしまったの?

振られたあとは涙は少しも出なかった。ただただ驚いてた、呆然としていた。だけど、静花に相談した途端に溢れるように涙が出た。嗚呼、終わっちゃったのかな、わたしの恋って。
大粒の涙が目から止まらなく、わたしのセーターをやんわりと濡らしていった。


◇ ◆ ◇


目が腫れていないか確認するために、静花を引き連れてトイレへ向かった。
廊下を通っているとき、周りの人がわたしが泣いたことに気づきませんようにと願いながら歩いていた。

「明ー!次移動だぞ」

明、って単語にどきっとした。心臓に何かがぶつかったように跳ねた。つい最近別れたばかりの彼の名前はわたしの心臓にかなり悪い。

駆け込むようにトイレへ向かったけど、ちょうど男子トイレの前で話されていて、なかなか女子トイレへ行きづらい。
だけど、よくよく考えたらなんでわたしが行きづらいの?わたしは何も悪いことしてないのに?わたしが遠慮しなきゃいけないこと?
なんて、開き直って考えてみたら、案外すんなりとわたしの足は進んでいた。



「…あれ、茉央?目腫れてる?」

は!?!?なにこいつ!!なに普通に話しかけてくんの!?!?
なるべく無視をしようと自然に静花に話しかけたつもりだった。だけど、あまりに不自然だったのか、静かに鼻で笑われた。こいつまじ許さねえ。

「あー静花マスカラ取れてない?」
「メイクしてねえよ」
「茉央泣いた?なにあったん?」
「(おまえのせいだよ)あれ、してなかったっけ?じゃあ口紅は?」
「だからメイクしてないっつってんじゃん」
「ねえ、茉央、」

少しは話合わせろよ静花!!!相変わらず無神経に話しかけられて、いい加減にしてほしいと思った。
目に力をいれて、強く彼を睨んだ。だけど、向こうは動揺した様子なんて少しも見せずに、ただひたすらわたしにどうした?と聞いてきた。


あんたのせいで泣いてんじゃん。つい最近貴方に振られたばっかりなんですよ、わたし。自分から振ったんだから察してよ。
それとも、そんなこと簡単に忘れちゃう程度だった?わたしとの関係はそんなにあっさりしたものだった?別れたからって、普通の幼馴染になれると思った?

信じられない。馬鹿にしないでよ。

駄目だ、なんか、泣きそう。






「――――川田、死ね」

川田、は明の苗字だよな…?いや、そうじゃなくて、え、今言ったの静花?
声は明らかに静花の声だったし、死ねってよく暴言吐くけど、明へ向けて言ったのは初めてだと思った。


静かに右腕を引かれるがままに、わたしは動いていた。
その瞬間、さっき我慢しようとした涙がこみ上げてきて、わたしはしゃっくりを繰り返してまた泣いた。



◇ ◆ ◇



「はあ…静花、最高すぎ」

「お前が馬鹿やらかしてるからでしょ。ていうかそのため息やめてくれない!?」

すいません、とぼそっと呟いてわたしは鼻をすすった。ずずっ、鼻水の音が聞こえて、明らかに静花の顔が強ばっててなんやねんこいつって思った。



「あー、ていうか、わたしの恋終わりましたよ」
「…は?」
「だってさ、もうわたしのこと完全に吹っ切れてる感じだったじゃん。向こうが。まあしょうがないかー、たぶん今まで別れたいって思ってたんだろうなあ。結構頑張って好かれようとしたつもりだったんだけどな」
「……かもね」
「はあ、新しい恋はやくしないとなー」

まだわたしが完全に吹っ切れてない。だけど、無理やりでも一歩足を踏み出して前に進まなくちゃいけない気がした。
じゃないと、ずっと辛いままでいなくちゃいけない。そんなの嫌だ。

嫌だ、こんな気持ち、



「そんなんだから振られんだよ、ブス」
「!!は?今わたしに言った?!」
「あんた以外誰にいんのよ。あたしがさっき言った言葉覚えてる?」

眉根を寄せた静花の顔が本気で怒ってるようで、わたしは必死に記憶を遡った。あーなんだっけ、全然思い出せない…やばい、怒ってる怒ってる。結構苛立ってる。こっち見てきてるし、なんだっけなんだっけ思い出せブスなわたし。


「あんたの愛情が足りなかったんじゃないの!?」
「あああそれね!」

「…つもりじゃだめでしょ。伝わってないじゃん。だからこういう結果になったんじゃないの?そう言ったでしょ?それなのに、なんであんた"好かれようとしたつもり"とか言ってんの?全然あいつに届いてないじゃん」

「…なんか、わたしが悪いみたいになってない?」

「別にあんたが全部悪いっていってるわけじゃないけどさあ、」
「……」

「好きなら逃げんなや」

顔を思い切り叩かれたようだった。それくらいの衝撃で目が覚めた。どん底だった景色がいっきに明るくなったようだった。

わたし本当に馬鹿だって思う。だって、あんなこと言われて泣いたのに、今でも明の笑った顔ばっか思い出すんだもん。初めてのデートで恥ずかしそうに手差し出してくれたのとか、キスしていい?ってそっと小声で聞かれてお互い照れて笑っちゃったこととか、明の家で一緒に勉強したこととか。馬鹿みたいに思い出しちゃうんだよ。こんなに好きなんだもん。諦められるわけないじゃん。




…わたし、逃げようとしてた?―――うん
…わたし、まだ明のこと好きなように見える?―――うん
…わたし、1人で頑張れると思う?―――いや、


「1人じゃなくね?普通に考えて、2人じゃね?」

真顔で自分のことを指差す静花。あんたのそういうとこが好き。





「まずはさ、もう1回告白するべきじゃない?」
「え!とりあえずアピールしてから、告白したほうが確率高くない?」
「いや、まだ好きだよって意味で告白しないと、簡単に忘れられるよ?あんたのことなんか」
「最後、余分」




ぼくらはコミュニケーション障害



恋ってのは、
それはもう、
ため息と涙でできたものですよ。

- シェイクスピア -




end.



title::落日さんより



ぼくらはコミュニケーション障害/紫歩

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