いくら思いが募ったところで伝えられる勇気さえもないのだから意味がない。できることなら、この曖昧な、少しでも触れれば崩れてしまいそうな関係から一歩踏み出す、そんな小さな勇気が欲しい。
好き、かも、と思ったのは高一冬ごろ。佐々木がバレンタイン少し前に彼氏と喧嘩別れして泣きついて来た時に、俺と少ししか変わらない大きめな背がどうしようもなく小さく見えて「俺にしとけば泣かせたりしないのに。」なんて臭いことを柄にもなく考えたのだった。
それから悶々と一人で誰にも相談せずに悩む日が続いて。
どうしようもなくって部活とクラスが一緒の仲良いやつに相談したら楽しそうに「えっ佐々木?あの?!佐々木?佐々木鈴子!?…告れ!」と、言われ、いざこざを二人で繰り返して。「戸崎!イケメンになれ!」なんてふざけて言われた日には思いっきりのデコピンをした。
腹を括って思いを伝えようと決心したのが高2の夏。思いの外早かったのか、遅かったのか。取り敢えずそれが今だ。
「話があるから、一緒に帰ろう」と誘って二人で帰り道を微妙な隙間で歩く。
アスファルトが太陽に照らされて、じりじりと溶けそうなくらいに暑くなっている上をてくてくと。もう夕方で日もいい加減傾いてきている最中なのにまだ暑いのだ。たまに吹く風は近くの家に飾ってあるらしい風鈴を揺らしならしていた。
りーん、と風鈴がまたなるのと同時に風がふわっと吹く。暖かい空気が揺れて少し冷たい風が体にまとわり付く。
「あの、さ、今日の、帰りたかった理由…なんだけど。」
知り合いなんて絶対通らないであろう道で、二人道が分かれるところまできてから、ようやく重たかった口が開いた。口の中がからからでこれだけ言うのにも喉が掠れて少し痛いくらいだ。緊張のせいなのかもしれないがうまく言葉が出てこない。
「どうしたの?」
不思議そうな顔をして顔を覗き込まれた。いつの間に下を向いてたんだろうか。もう既にかっこ悪い。ゆっくりと顔をあげると恥ずかしさはましたがそれも仕方ない。今更したを向いて逃げることも出来ない。
「あーっ……えっと……」
「うん?」
「なんていうか、その、気持ち悪がらないで聞いて欲しいんだけど…」
「えー?何を気持ち悪がるの」
変なのとふふっと笑顔を零して笑う姿に心臓がうるさい位にどくどくとなる。その笑顔は俺がこれから言う言葉をきいても保たれるのだろうか。
「…うん、好き、だ、って」
「え…?」
何の前触れもなく言葉を落とした俺をみる目が大きく見開かれて正面に捉えている。驚いた様子ではあるが消して目をはなそうとはしない佐々木から俺も顔を背けることができない。
「だから…好き、だ。佐々木のことが好きだ。」
「…」
ぼっと顔を紅くしたように見えたが夕焼けのせいでもう佐々木全体が明るく赤くなっている。それでも顔が赤くなくっているのがわかったのは顔に手を当ててふにゃっと困った顔をしたからだ。
「返事…今もらえる…?」
「あ、っその…」
「いや、すぐじゃなくても、いいんだけど…迷惑とかだったら早く行って欲しいなぁて。」
ははっともう手遅れかもしれないけど冷静を保てるよう力なく笑う。せめてもの俺なりの強がりだ。きっと顔も真っ赤だろう。でも、夕焼けのせいだと思って気がつかないで欲しい。
「…違うの」
彼女は顔をぶんぶんとふりながら言った。なんだと思った俺の少しの冷静さは次の一言で吹っ飛んだ。
「嫌じゃないの。……嬉しいの」
「へっ…?」
驚いたせいで変な声が出てやっぱりかっこ悪いと思った。最後まで格好のつかない告白だ。
「なんていうか、私も好き…であってる?」
「…あー、あってる?よ、佐々木の気持ちがそうなら。」
…俺の顔は真っ赤だ。絶対に。もう夕焼けでは隠せないくらいに。でも。
ああ、かっこ悪くてももういいや。どんなに嫌なことでもいまなら笑って許せてしまいそうだ
世界一格好の悪い告白/かんな