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「……あれ?」

確かに扉を開いて次の部屋に入ったのに、出口を探しているうちにホルマジオとイルーゾォと呼ばれている人が消えた。何だか良くわからない、けれど

(チャンスだ!)

リビングらしいこの部屋を出てしまえば後は警察に駆け込むだけだ。
玄関だと思われるドアを開くと、目の前に現れたのは狭い裏路地とひしめく建物の壁や塀だった。

(……何だか見覚えのある雰囲気の場所ね)

赤茶けた屋根や、遠くの丘に白い邸宅が見える。空が抜けるように青くて太陽の光が着ている白のワンピースを通して肌を刺す、そうまるでここはイタリアだ。

「そんな、馬鹿げてる」

そうつぶやきながらも、私はここがイタリアであることを確信していた。見覚えのある景色は私の記憶を呼び起こし、自然と足が裏路地を進んでいく。
自分自身、何度も死んで人生を繰り返していた。それ自体馬鹿げた事だけど、実際におきた事なのだ。
やり直しするのが毎回幼い頃の自分の家からだなんて決まっている訳ではないのだ。

大通りに出ると見慣れた商店の並ぶ下町だった。スパッカ・ナポリ、イタリアのナポリに存在する私の父親の実家のある場所だ。

「なんだ、じゃあおばあちゃん家に行って警察呼べばいいじゃん」

父親の実家は大通りのすみにある小さな古本屋だ。この近く、歩いて五分もかからない。
昔は治安が悪かったらしいけど大通りは観光地化されて、よっぽど奥の通りに行かなきゃ安全だ。そう、さっきみたいな奥の人通りの少ない裏路地じゃなきゃね。

真っ昼間なのに観光客がいない商店街の端までやって来た、ここの駅側の店舗がおばあちゃんの家だ。そのはずなのだ。

「なんでよ?」

そこには古本屋は無く、お土産屋がナポリ特有のナターレの人形をところ狭しと並べていた。

「嘘でしょ!?おばあちゃん家は!?」

落ち着け、落ち着いて考えろ。いつも人生が『リセット』された時はどうだったか、いつも同じ場所や時間に『リセット』されてるわけじゃなかった。そうだおばあちゃんが引っ越す前に『リセット』されたのかもしれない。

誰かに聞こうにも、通りは不気味な程に静かでひとっこひとりいない。

まずは今現在の年月日の確認だ、そしてその足で警察へ行く。ここは大きな駅からそう遠くない、次の大通りを歩きながら新聞スタンドと警察署を探す。簡単な事だ、なにも問題は無いじゃない。

急ぎ足で商店街の角を曲がると誰かにぶつかったみたいで、肩にちょっとした衝撃受けた後、お尻に石畳から攻撃を受けた。ワンピースの裾が捲り上がらなかった事だけがラッキーだった。

「ごめんなさい、私急いでて…」
「お嬢さんお困りかい?」

振り返るとスーツを着たイケメンとゴツめだけど気弱そうな少年が大荷物を抱えてのぞきこんできた。なんだ、人いるじゃん。

「ちょっとお聞きしたいんですが、ここから一番近い警察署ってどこでしょうか?」
「警察?教えてもいいが遠いぜ、送ろうか?」

イケメンは荷物を気弱そうな少年に押し付けて、私に手を差しのべてきた。でも私はその手を掴む事ができない、『警察が遠い』『送ろうか』この繁華街で警察が遠いなんてあり得ない。
なんだかおかしい。

「ちょっとぐらいなら歩けます、大丈夫です」

手を取らずに自力で起き上がって歩こうとすると、それを阻止するようにイケメンが私の進行方向に回り込んできた。

「歩いてもたどり着けないと思うぜ。なにせここはイルーゾォの鏡の世界の中だ、もしたどり着けたとしても、そこに警察官はいないぞユキちゃん」

なんでこのイケメン、私の名前を知ってるの!?



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