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空き部屋は普段オレが寝倉に使っている部屋だ。この部屋しか空きが無いからここに寝かすしか無いって事はわかっているんだが、ここに寝かせてしまうと俺の今日の寝床が無い。
(どうすっかな、リゾットのベッドでもぶん取るか。アイツいつも夜中まで仕事してるから問題ないだろ)
「よっこいせっ と」
「っう……?」
ドアノブに手をかけようと身を屈めると、体勢が変わったせいか少女の意識が戻った様だ。
「………天使」
微睡みながら少しだけ起きた少女の瞳は俺の視線と重なった。震える睫毛の奥にある瞳がオレを射抜く。
一瞬、ほんの一瞬だけ。
「綺麗ね」
少女は一言呟き、微笑んでまた眠りに落ちていった。
それだけなのに足が根を張った様に動けない。
綺麗だって?一体何がだよ。
「プロシュート、やけに時間がかかっているが何か問題か?」
「いや、何でもないぜリゾット。今行く」
扉を閉めてリビングへ向かう。
顔が熱い。
リビングに入る前に手のひらで顔をおおい、熱を冷ました。
突拍子もない事ばかり起こって疲れているだけだ、それだけだ。
この感情も疲れのせいなのだ。
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