短編 | ナノ



私の名前は才賀名前、大企業サイガグループ社長の三女__という事になってるけど、本当はそんなんじゃない。

身寄りの無い私を、遠縁だった義父さんが拾ってくれたってだけ。

私を引き取ったって何の良いこともないのに、義父さんは優しい人。
そんな風に思ったのは最初だけ。

義父さんは一度しか会ってくれなかった。幼稚園児だった私に二三質問した後、使用人に任せてどこかに行ってしまった。忙しい人だから仕方ない、それに義父さんと私は血がつながってないんだから。

私は才賀のお祖父さんの遠縁、義父さんはその人の養子。紙の上だけの繋がりだ、行き場の無い私を保護してくれただけありがたい。

新しくできた義理の兄姉達も、最初こそ私を邪魔者に感じていたみたいだけど、遺産も貰えない、成人したら追い出す子供の事なんてすぐにどうでもよくなったらしく、声もかけてこない。

私はこの才賀の家で、空気よりも存在が薄いんだ。
火事でみんな無くしてしまったあの日に、私は消えてしまったのかもしれないと。なのに、私の気持ちだけがこの世界に置いていかれてしまったんだ。

(さみしい)

ひとりぼっち、なんにもなくてなにも感じない。


そんな私を才賀の家から連れ出して変えてくれたのは、お祖父ちゃんとその知り合い。
ずっと大きな屋敷の隅っこで過ごしてた私に、会いに来たその日に。

「おいで。お引っ越しするんだ、新しいお家は自然がいっぱいのいい所だよ」

お祖父ちゃんは優しい笑顔で私を抱き上げた。視線が大人と同じくらい高くなって、もう一人の顔がよく見える。

外国の、お人形みたいに綺麗なひと。

見惚れてしまって、しばらくの間ぼうっとしてしまったのが恥ずかしくて、誤魔化す様に笑ったら、なぜか睨まれた。
こわい、それにお引っ越しってどういう事なんだろう。義父さんはいいって言うまでこの屋敷から出ちゃダメだって言ったのに。

「どうして?義父さんは私のこといらなくなっちゃったの?」
「そんな事はないよ、むしろ…いや、何でもない。名前ちゃん心配しなくても大丈夫だよ」

大丈夫なんかじゃない。
義父さんは私のことなんて、ここに置いておきたくないぐらい嫌になっちゃったのかな。なんて考えたら涙が出てきた。
やっぱりここにいちゃいけないんだ、でも出て行ったらどこに行けばいいんだろう。

「名前ちゃん、今日からこのお兄ちゃんの言う事をしっかり聞くんだよ」

怖がる私のことなんて無視して、お祖父ちゃんは私の体をそのその人に渡してしまう。
意外にしっかりした腕に包まれ、この屋敷で覚えた愛想笑いをつい彼に向けたら、鼻で笑われた。

「お前、不細工だな」

その時はまだ『不細工』の意味が解らなかったけど、彼が私の事を嫌っているんだってことだけはわかった。

それが私とギイ・クリストフ・レッシュの出会い、彼は冷たい目をした銀色の天使だった。