短編 | ナノ



もうすぐ一巻発売記念!
坂井さんマジ天使!!きゃわわすぎて毎週死にそうです。もうスピリッツは好き漫画多くて毎週が薔薇色です
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彼と初めて合ったのは憂鬱な五月の終わりの、スタバの注文口でだった。

「ご注文をどうぞ」
「あー…えっと、あの…」

目の前に並んでいた人が注文に手間取っていたので、普段は並んでいる人なんて気にもしないのにどんな人なのか気になった。

(たまにいるよね、注文の仕方がわからなくて混乱しちゃう人)

背の高いその人を斜め後ろからのぞくと、30、いやアラフォーぐらいだろうか焦った顔の青年だった。

「フラ…フラッペ…じゃない!フラ……」
「フラペチーノ?」

私が何となく口を挟むと、注文名を思い出したのか明るい笑顔になって店員に叫んだ。

「そうだよフラペチーノ!それひとつください」

あ、この人笑顔がすっごく可愛い。悩んでいた時の精悍な顔つきも男らしくて素敵だったけれど笑うと普通の時より幼く見えて可愛い。

「ところで君は?」
「………?」

急に青年から話をふられたけれど、なにが『君は?』なのかよくわからない。

「手助けしてくれたお礼に奢るよ」

そう言って私の背を注文口に押し出した、これじゃあ断り辛い。

「じゃあキャラメルマキアートのトールを……」



坂井さん、自己紹介してくれた彼は起業家らしい。仕事の合間に休憩でこの店に入ったみたいだけど、休憩に入った訳じゃ無いみたいでラップトップを取り出してファイル片手にまた悩み始めた。

「決算ですか?」

机の上に広がっている資料は何かの会社の会計資料だ、しかも複数社ある。

「ああ、俺は商売は得意だけどこういう細かいのは苦手で」

複式簿記ってなんなんだよと唸りながらキーボードを叩く坂井さんが大変そうでつい言ってしまった。

「ちょっとかしてください」

借りた資料をぱらぱらと捲るとあり得ないくらい高い金額が踊っている。

「うわっ凄い収入!ここはもっと経費で落とした方がいいですよ、何か資料とかあります?あと保険とかのもあれば…」
「君、こういうの得意?」

嬉しそうな顔で私を見る坂井さんの勢いに、つい答えたくない事を答えてしまう。

「はい、そんな仕事を…」
「ウソっ!!じゃあちょっと手伝ってくれ、お礼は弾むから!!」

『してました』その一言が言えなかった。
仕事、やめちゃったんだよね。真面目にやってたんだけど、法律スレスレの悪どい事やらされたくなくて逃げてしまった。明日、この東京からも逃げて田舎に逃げ帰る予定だ。



私達は二時間ほどお手伝いして、もしもの時の為に連絡先を交換して別れた。たぶん使わないだろうけど。
次の日、あの日きりだと思っていた坂井さんから、一本の電話がかかってきた。

「一緒に仕事をしないか?」
「ごめんなさい坂井さん、私一時間後の新幹線で田舎に帰るんです。仕事を止めたから…だからもう会えません」

そう言って通話を切った。
平日昼間の待合室は少し人がまばらで、ちょっとだけさみしい。
これで東京ともお別れか、と感傷に浸っていると、バタバタとした足音と共に自動ドアが開いた。

「やあ苗字、君を迎えに来たよ」
「……坂井さん!」

急いで来たのか、坂井さんの格好はちぐはぐで近所にゴミ出しに行く格好ですらこんな格好はしないだろう。

「俺のパートナーになってほしいんだ、俺と一緒に世界征服してみないか?」

なんだその詐偽みたいな勧誘は。

名刺を差し出されたので見てみると見慣れない単語が職業の前についていた。

「エンジェル投資家……エンジェル?」

視線を名刺と彼の顔を何度も往復させたけれど、そこにあるのは天使なんかじゃなくて、彼の名前と謎の職業にMSNのID、それと上等なスーツにTシャツジャージクロックスという謎の組み合わせの男だけだった。