短編 | ナノ



※バレ有注意※
ベルトルトとエレン双子妹(エレンと同じで巨人化できる)
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暗闇の中で何も見えない。

「…痛い」

やっと104期のみんなと合流できたと思ったら、あの超大型巨人と鎧の巨人が現れてみんなとハンジさんの班を襲った。

クリスタと二人で怪我をしたユミルの手当てをしていたはずが、急な爆風に吹き飛ばされ体勢を立て直した時にはユミル共々超大型巨人の手に捕まって口の中に放り投げられ、現在の状況もわからない。

(暑い…)

超大型巨人の口の中は胃液に満たされているわけでもなく、女形の巨人のように滑っているわけでもない。暗闇と、熱い肉の壁が私の世界をおおっていて出口すらわからず途方にくれる。

「う…」

かすかに闇の奥から人の声が聞こえた。

(ユミル!!)

女形の巨人…アニと戦っただけの私と違って、ウトガルド城でみんなを守って傷ついたユミルの体は絶対安静の重体だ。

(早く脱出して、ユミルを安全な所に避難させて、私もエレンと一緒に巨大化して戦わないと…!)

あの二体の巨人は母さんの敵、いや人類の敵なんだから。

肉の壁を手でつたい歩きしながら、なんとかユミルの所までたどり着くと、ベルトルトがユミルを担架から起こして抱えようとしていた。こちらにはまだ気づいていないので声をかける。

「ベルトルト!良かった無事だった、トロスト区以来ね。ねえ、ライナーは?」

ベルトルトが無事だった事が嬉しくて、邪魔にならない程度に彼の腕に抱きついた。

「名前…」

でも、見おろしてくる目がこわい。何かに怯えているような、そんな目だ。

「…ベルトルト?」

そうだ、彼と会うのはトロスト区以来。その後は審議会の間中ずっと昏睡していたし、気がついた時には調査兵団のリヴァイ兵長あずかりになって隔離され、そのまま壁外調査に連れ出されたのだ。

あの頃は私が巨人になれるなんて誰もわからなかったから、エレンを亡くしたと思っていた私をなぐさめてくれたし、訓練兵団の解散式の夜に私の告白を受け入れてくれた。

でも今は違う、きっと私が嫌なんだ。
ベルトルトも私達と一緒で巨人に故郷を奪われた、巨人になれる人間が好きになれるわけがない。

「そうだよね、巨人になれる私なんてこわいよね」

ベルトルトの目を見ていたくなくて腕から手を離そうとすると、急に彼の手が手首を掴み、離れるどころか抱き締められた。

「違う!そうじゃないんだ!!」

震える声で叫ぶ彼の顔は、視界が暗すぎて表情が見えない。

「好きだよ名前、お願いだから僕を嫌いにならないでほしい」

彼の大きな体のてっぺんから、ぽたぽたと辛い雨が私の顔に降ってくる。

「私があなたを嫌いになんてならないよ。どうしたのベルトルト?」

精一杯背伸びをして、涙まみれの彼の顔にキスをした。私もいつの間にか涙を流していたみたいで、こんなに近寄っているのに視界が滲んで彼の表情がわからない。

よく見ようと涙を拭おうとしたら手を奪われて、彼の顔が急に近づいた。
やっと見ることのできた涙で潤んだ彼の瞳は、ベルトルトからの初めてのキスをされたことでまたよく見えなくなった。

なれない深い口づけに翻弄され息ができない中、初めてのキスにこたえようと、彼の顔を私の手で包もうと思ったが手が動かない。

(……?)

いつの間にか両手がユミルを担架にくくりつけていた紐で拘束されている。どうして?

「ごめん名前」

ユミルと私が抱えられ、超大型巨人の体内からベルトルトが運び出した時に目の前にいたのは鎧の巨人。

ベルトルトは立体機動装置で鎧の巨人の肩に登り、鎧の巨人に話しかける。

「ライナー、行こう」

(そんな、そんな事って…)

あまりの出来事に何も考えられなくなった私は、ただ遠くなっていくウォール・マリアを眺め続けていた。