短編 | ナノ



この古城に来て三日目、昨日やるはずだった庭の掃除はハンジの巨人の件で一日延びて今日になった。

「この旧本部荒れすぎでしょ!?このままじゃ壁外調査までの時間が掃除だけでつぶれちゃう…」

中庭の掃除を終えて裏庭へ行くと、そこには永年風雨にさらされ荒れ果てた庭があった。第一、お城の庭を少数のリヴァイ班だけで掃除する事自体に無理があるのだ。

嵐で迷いこんだらしい大木が裏庭を占拠している、これは片付けるのに一苦労しそうだ。

「フッ、名前はだらしねえな。俺が手本を見せてやるよ」
「ねえ、それも兵長の真似?似てないからやめてくれない?」
「ペッ、ペトラさん!!オルオさんに切りかかろうとしないでください!切るのはこっちの木ですよ!!」

ブレードを逆手持ちで構えるオルオに容赦なくペトラが毒づく、あまりの形相にかわいい顔が台無しだ。でもその言葉はここにいる全員の総意だと思う、エレンはペトラをとめなくていいと思うんだ。
つかあの髪、どう考えても兵長インスパイアだよね。似てないけど。

「…あれだけ言われてやめないのも凄いよね。そういやグンタは兵長の真似とかしないの?」

調査兵団に入団する者は兵長のファンが多く、憧れて真似する者も後を絶たない。そのうち恥ずかしがってやめてしまう人がほとんどだけどね、麻疹みたいな物だ。

「昔は色々やったけど似合わなかった。っていうか、あの頃の俺を思い出すと恥ずかしいからほっといてくれ」
「ああ……」
「そうだな……」

確かにグンタが兵長の髪型だと……なんか似合わないな。隣にいるエルドは……グンタよりは似合いそうではあるが、兵長とはまた違った雰囲気になりそうだ。

「手が止まってるぞ名前」
「ひゃっ!!」

いきなり誰かにお尻を撫でられて、びっくりして前のめりに転けた。草むしりの途中だったので引っこ抜いた雑草の中に顔を突っ込んでしまいぐちゃぐちゃだ、きっと顔も泥まみれで見れたもんじゃない。

庭掃除のメンバーで私の視界にいない者はあと二人、こんなイタズラをするのはエルドしかいない(というかエレンにその勇気はないだろう)とうつ伏せに倒れたまま拳を振り上げて後ろを向くと、なんとそこにいたのはエルヴィン団長と会議をしていたはずのリヴァイ兵長だった。

「リ、リヴァイ兵長こんなところで何するんですか!!」
「昨日の夜、俺の部屋に呼んでやったのに先にグースカ寝やがって、少しは触らせろ」

そう言いながら私のお尻をぐいぐい押して、私の顔を雑草に押し付けてくる。

エレンのあの騒動とハンジの巨人話に付き合ってて眠かったんだから仕方ないじゃない、それでなくても旧本部の大掃除で疲れているのだ。体がもたない。

「きたねぇ、後で風呂入れよ名前」

理不尽だ。

「今日は先に寝るんじゃねえぞ」

そう言って私のお尻をだめ押しした兵長は満足顔で、庭の端を掃除しているエレンの所へ去っていった。

(……そういうのは他所でやってほしい)

口にはしなかったが、エルドとグンタは内心そう思った。



「あれ、名前さん。この藪なんかおかしくないですか?」

雑草生い茂る庭をなんとか片していくと、ひときわ大きなしげみがあった。

「切っちゃおうと思ったんですけど、なんだかそこ入口っぽいですよね」

エレンの言うとおり藪の一部分は他よりしげみが薄く、タイルの様なものが地面に並んで埋め込まれている。

「どれ」

リヴァイ兵長がいとも簡単に刃で葉を削いでいくと、開けた先に見えたのは広い空き地と、それを囲むしげみの中で咲き誇る色とりどりの薔薇の花だった。

「「……綺麗」」

荒れ果てて殺風景だった旧本部にこんな所があるなんて。

「今日はここでお昼にしましょうよ兵長!」
「掃除が終わったらな、なんだあの適当な雑草の抜き方は。てめえらやり直しだ!」

兵長のブレードがザクリとエレンと私の間に刺さる。

適当って言われても…結構しっかりやったと思うのだが兵長のお気に召さなかったようだ。

結局その日もくたくたになるまで掃除をして兵長の部屋でぐっすり寝てしまった。次の日の兵長の顔は……もう恐ろしくて思い出したくない。