短編 | ナノ



先日、食事の時にエレンにのされて以来、手を抜いていた教科にも真面目に取り組むようになったはずの彼はどこにいってしまったのだろう。
何かあると、マルコや私に頼みにくる癖をどうにかしてほしい。

「ねえジャン、私はあんたのカーチャンじゃないのよ?」
「俺だってお前みたいなカーチャン嫌だぜ」

私がジャンの母親かどうかが問題なのではない、目の前にある立体機動装置が問題なのだ。

ジャンは立体機動装置の成績が良い。でも成績が良いのは『立体機動装置の使用』についてだ、整備についてじゃない。
もちろん、頭がいいから大抵の整備は他の生徒よりも出来るだろう、でもジャンの高度な立体機動装置の使い方に装置の取扱いと整備が追いついていない。使い始めはジャンの動きでワイヤーが劣化したり、装置の部品が消耗したりもした。でも最近はジャンの技術も高まり大抵のことじゃ私を頼らなくなってきていたのだ。

「名前、整備兵を希望してんだろ?予行練習だと思ってちゃちゃっとやってくれよ」

私はジャンと違って立体機動装置の使用は大して上手くない、ただ整備に関しては104期トップだと自負している。機械いじりが得意なのだ。

「『俺の能力に合わせて改造』なんて無茶な注文がちゃちゃっと出来るかっつうの!ただでさえ複雑な動きをするお前に合わせてだなんてそう簡単に出来ないよ、自分でやるか普通ので我慢しなさいよ!!」
「そりゃあお前、天才な俺にはそれなりの物が必要だろ?」

呆れて無言の後、頭をかきむしった。どうせ憲兵団に入るんだから卒業したら、たいして立体機動装置使わなくなる癖に!

「あ゙ーーもうわかった、わかったよやりゃあいいんでしょ!早く腰に着けてるそれ渡しなさいよ!!」

怒りに任せて乱暴にジャンの腰に飛び付いて装置をはいでいくと、ジャンが嬉しそうな顔して茶化してきた。

「激しいな名前、エッチ。まだ夜じゃないぞ」
「うっさい!!」

本当、ムカつく奴だ。それを許してしまう自分もムカつく。

「サンキュー!やっぱこういう時に頼れるのは口の固い昔馴染みに限るな!!」

ジャンが昔みたいに頬にキスして感謝の言葉を耳元で叫び、部屋を去っていく。昔はよくしていたけれど、久しぶりのスキンシップが恥ずかしくて顔が熱い。

なんでよなんでよ!!なんで童貞の癖してこんな行為をさりげなくすることが出来んのよ!私を女として見ていないから出来んの!?それとも天然のタラシなわけ!?

「―――馬鹿!!」

去っていく背中に向けて叫ぶと、ジャンがまるで悪戯に成功した子供みたいなにやついた笑顔で振り返った。

「本当、名前ってまだまだお子様だな!」

人の気も知らないで、もうホントこんな不真面目な奴と一緒にいるとろくな事がない。