子育て話、ハンジと同室設定
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ハンジさんと同室になって以来、『巨人の涎が染み着いているから嫌だ』と私の部屋に寄り付かなくなったリヴァイ兵長が珍しくやって来た。
「オイ、これはどういう訳だ?」
やって来た兵長は一歩も部屋の中に入らずに怒っていた、そんなにハンジさんの部屋が嫌なんだろうか。私には物が少し多いけど綺麗に片付けられているように見えるのだが。
「兵舎の外までビイビイ煩せえ、気が散って訓練にならねえよ」
「すいません…」
『ビイビイ煩い』のは昨日からここで預かっているリリーの事だろう。お爺ちゃんが腰を痛めて、母さんは駐屯兵団の仕事が忙しい為、一月後の壁外調査まで暇な私が面倒を見ているのだ。
いや、母親なのだから面倒を見て当たり前だ。でも、自宅と違う環境に驚いたのかリリーはグズってばかりで夜泣きも酷かった、今はやっと泣き疲れて私のベッドで眠っている。
「またまたー、名前とリリーちゃんが可愛いから会いたくなったんでしょう?このロ・リ・コ・ン。名前がリリーちゃんに構いっぱなしで一日放っとかれたから我慢できなくて、大嫌いなこの部屋まで来ちゃったとか」
「誰がロリコンだ」
「十歳以上年の差があると……ねえ?」
ハンジさんと兵長が部屋の出入口で口論を始めた、煩いとか、リリーが起きてしまうとかもあったが、それ以上に聞き捨てならないのはハンジさんの言い方だ。
「ハンジさんの馬鹿!私もう訓練兵は卒業してます!」
怒りに任せて怒鳴ると、ビックリしたのかリリーが起きてしまった。あーもう、何やってるんだろう、私。
「言葉のあやだよ!子供だって言ってるんじゃなくて、貴女を昔から見てるからさ…ほら私が入団した時君はまだ小さくてさ、リヴァイは私と年も近いから、こりゃあ少女嗜好だなあと思っちゃったわけで―――」
ハンジさんは必死に弁明しようとしているが、どう考えても私に対して火に油を注いでいる。小さいって、子供だって思っているじゃないか!そう思われるのが一番嫌なのに。
「もう!兵長行きましょう!!」
「どこへ行くんだ」
リリーと彼女用の荷物を抱えてこの部屋から出ていこうとしたが、入口に立ちはだかる兵長は押しても引いてもピクリとも動かない。やっぱり鍛え上げられた筋肉と、あの身長に対して重すぎる体重のせいだろうか?だだ、リリーを近付けると嫌そうに顔をしかめた、兵長は子供が嫌いなんだろうか。
「兵長の部屋です!」
「その涎まみれを俺の部屋に入れるつもりなのか!?」
涎まみれって、ちょっと垂れてるだけじゃない。私は兵長の制止を無視して脇をすり抜け、一直線に兵長の部屋に向かった。
食堂でお願いして作ってもらった味の薄い食事を細かく割いてからリリーの口に運ぶと、嬉しそうに口を開いて迎え入れモゴモゴと咀嚼した。
「赤ん坊の食いもんは母乳じゃねえのか?」
「もう歯が生えてますから普通の物を食べられますよ」
地下街出身らしい兵長は時々不思議な質問をしてくる、子供に関してはあまり環境が良くなかったせいか接したことがほとんど無いらしくて、おっかなびっくりでリリーに対応する兵長が面白い。
「それ、大人と同じなのか?」
「食べてみます?」
まだ使っていない匙にひと掬いのせて不機嫌そうな兵長の顔面に差し出すと、まるで雛鳥の様に口を開けぱくりとかぶりついた。
「……薄い、こんなもんをよく旨そうに食うな」
「まだ味覚が発達してませんから、あんまりくどいと体に悪いですし」
体がまだ小さいからくどい食事だと内臓に悪い、最近の食事は食糧難のせいか種類や量が少ないのでどうしても味付けが濃くなる傾向にある。リリーが口の中の物を全部飲み込んだのを確認して次の一口を差し出そうとしたけど、口をぴったりと閉じて食べてくれない。怒ったような顔で兵長の顔を睨み付けていた。
「……もういらない!」
そう言って癇癪をおこすが、食事はまだ半分程残っている。この量では夜まで持たないだろう。
「まだたくさんあるわよ?ほら…」
「やだ!」
リリーの放り投げた匙が兵長の頭に当たった。これは怒るだろう……と思ったのだが、兵長は怒るどころか嬉しそうなニヤニヤ顔で頬杖をつきながらリリーを眺めていた。
「きたねえぞクソガキ、もう食べねえなら俺が『ママと』食べてやるからあっちで一人で遊んでな。この調査兵団じゃあお前のママは俺のモンなんだ、ただこねるんじゃねえ」
「やだー!」
やだやだと私にしがみついて泣くリリーが面白いらしく、兵長は楽しそうに自分の食事をたいらげていった。
「そろそろどけ、交代だ」
「やだ!りばいやだ!」
その後も事あるごとに兵長とリリーがもめるので、夕方にはくたくたに疲れてしまった。
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