短編 | ナノ



「あれ?二人ともなんでまだ残ってるの?早くご飯食べに行かないと、鐘が鳴って食堂しまっちゃうよ」

クリスタ、ユミルと共に立体機動装置の整備を終えて食堂に夕飯を食べにいこうとしたら、座学の教室にコニーとサシャがまだ残っていた。
しかも明るい二人にしては、珍しく暗い顔をして教室の机に座っている。

「名前……私達追試なんです」
「追試?」

そういえぱ今日の授業、コニーの頭はは舟を漕いでたし、サシャは隠し持っていた朝食の残りを一心不乱に食べていて、キース教官に呼び出されていた。
懲罰をくらわなかっただけでも、まだいい方だろう。

「俺達だけ1週間後、座学のテストがあって、それに受からなきゃ1ヶ月間毎日追試だってよ」

暗い顔をしているけれど、示されたテスト範囲はそんなに広くないし、暗記物中心だ。考えなくても覚えてしまえばいいから、座学の苦手な二人にもなんとかできそうな感じだ。

「なんだ受かればいいんじゃない」
「「受かりそうにないから困ってるんだ!」です!」

今まで暗かった二人が急に涙目で飛びついて来たので、思わず避けてしまった。二人は私という獲物がなくなったため教室の床をスベシャァと酷い音をたてて滑っていく。

「うわっ!大丈夫!?」

サシャが顔面から突っ込んだせいか夕飯を食べていないせいか起き上がろうとしない、もしかしたらその両方なのかもしれない。酷い腹の音が響く、女の子としてあり得ない情況だが、まあサシャだしそんな事気にしないか。

「二人ともそんな奴らほっとけ、私は先に食堂に行ってるよ」
「もう、ユミル!!ちょっと待って」

あきれて教室を去ろうとするユミルの服の裾を掴むクリスタが上目遣いで可愛い。
(……クリスタ結婚しよう)

「やめろ服が脱げる」

ユミルは食堂に行く事をしぶしぶ諦めたが、協力はする気が無いらしく教室の入口側の机に腰掛けた。

「私達でよかったらいつでも力になるから、だから今はご飯食べに行こうよ」
「今日だって屋外訓練キツかったからお腹すいてるでしょ?」

クリスタと二人で、倒れこんでいる二人を起こそうと手をさしのべたら、二人の目から涙が滝のように流れてきた。そんなに痛かったんだろうか?
不思議に思いつつ、クリスタと二人で小首を傾げながら顔を見合わせていると、また二人に飛びつかれた。今度は捕らえられ、四人で地面にダイブする。

「「きゃっ!!」」
「「……神様!!」」
「お前ら馬鹿だろ、さっさと食堂いくぞ」



なんとか二人を時間内に食堂に連れてくる事ができた。
食堂で元気にがつがつ食べる二人を見ているとなんだかほっとする、やっぱり二人は元気じゃないと。

私は席につくまえにエレン達にお願いを頼みに行った。

「アルミン。お願いがあるんだけど、座学のノート借りてもいい?」

三人とも食べ終えてのんびりしている。エレンは食べこぼしがあるみたいで、ミカサに口を拭かれて嫌がってる。なんて羨ましい。
この三人はほんと仲がいいな。

「わかったよ名前、僕のノートを持っていきなよ。明日朝もってくるね」
「ありがとう助かるよ、かわりに今度実習で何か手伝うね」

アルミンは座学で104期上位、他の実習は苦手だけど誰よりもノートがわかりやすいから、これを使えばあの二人も簡単に覚えられるだろう。

「めずらしい、名前は座学得意なほうだろ?授業で寝ててノート取り忘れたのか?」

エレンがミカサから抜け出して私に聞いていたので簡単に説明した。

「名前やクリスタは面倒見が良くてすごいな、私はいまいち人に教えるのが苦手でうまく伝える事ができなくて…」
「『エレンにもできる』じゃわかんねえんだよミカサ、もっと説明してくれないと」

エレンは何かを思い出してガックリしている、たしかにミカサの場合なんでも簡単にこなしちゃうので他人に教えづらいんだろうな。

「お前が馬鹿だからわかんねえんだろ」
「なんだと!」

「じゃ、じゃあ私もう行くね。ご飯食べないと!!」

急に横のテーブルからジャンが声をかけてきてエレンとの喧嘩が始まりそうだったので、私は急いで自分の席に戻った。




「ゴメンねアニ、しばらく迷惑かけちゃうかも」

宿舎に戻って同室でベッドが隣のアニに謝った。授業が終わった後に勉強会を開くから帰りが遅くなる、しばらく迷惑をかけるだろう。

「別に、私には関係ない」

ぶっきらぼうに返すけど怒った様子は無い、こういう時は『別にいいよ』って事だ。

「でも名前早めに宿舎に戻って来なよ、あんたが帰るのが遅くて寝てる途中で起こされるのは嫌だからね」
「アニ!!」

珍しくアニに心配されて、嬉しくてアニごと抱き込んでベッドに飛び込んだら技で返された。痛い。ツンデレが痛い。



「わっかんねーよ!!」

勉強会を始めて1週間、暗記物の勉強のはずが全然進まない。わからないというより覚えられないのだ、二人とも、実習はあり得ないほど理解が早くて上手いのに、なんでこんな簡単な事が覚えられないのだ。

「おい、お前らどうしたんだ」

声が大きかったのか、心配してライナーとベルトルトが来てくれた。二人ともやっぱり大きい、今までいたメンバーで唯一の男のコニーは小さめだから、なおさらでかく感じる。

「ああここはな、こう考えると楽だぞ。単語に法則があって…」

広げているノートを見て、何をしているのか理解したらしいライナーは、お手上げ状態の二人にサクサク教え込んでいく。
ライナーとベルトルトのおかげでだいぶ進んだけれど、今日は夜から実習がある。二人の集中力も切れたし程々に切り上げる事にした。

「こんなに疲れる事した後で実習かよぉ」
「もう死んじゃいそうですうぅ」

二人は生ける屍状態だ、私とクリスタも教えるのに疲れてぐったりしている。元気なのは横で見ていただけのユミルで、座り込んでいるクリスタの世話を嬉しそうにしていた。
こんな状態で実習は大丈夫だろうか、不安になってきた。

「俺達同じ班の予定だろ、サポートするぞ」
「僕もできるだけ補助するよ」

二人とも優しい、凄い頼りになるなあ。



「…私達の力で詰め込めるだけ詰め込んだけど、ちょっとが不安よね」
「ここはプロの先生に頼みますか」

テストまで後1週間、たぶん大丈夫という所までいったがまだまだ不安だ。ここでだめ押ししておきたい。

「なんで俺達なんだよ」

マルコと不満たらたらな顔のジャンがクリスタに連れられて教室にやって来た。

「二人とも教えるの上手いから」
「上手いからって馬鹿に上手く教えられるかどうか微妙だろ?」

マルコがジャンの口を急いでふさいだけれど間に合わなかった、それを二人の前で言わないでほしい。

「私達馬鹿ですけどそこまで言われたくないです……」

やばい、ジャンの言葉で二人のモチベーションが下がってしまう。

「名前はジャンの事を信頼してるんだよ、それに君は優秀だし教えるのだって上手いじゃないか」
「そうだよ、女子宿舎でミカサも言ってたよ!ジャン凄いって!!」

マルコの言葉につられて口走ったけれど、私は何が凄いとは言ってないから、間違ってはいない…はず。

「…そうか?まあ、そうだな。俺にかかればこんな問題どうという事は無い」

ジャンはミカサ関係となるとチョロいな、今度からこの手を使おう。




その後、テストなんとか受かって『よかったね〜』なんてクリスタやユミルとしゃべっていると、嬉しそうな顔のサシャとコニーがやって来た。

「どうしたの?」
「「神様ありがとうございました!お納めください!!」」

二人が出してきたのは、二人の食事の一部だった。え?お納めください?

「あははっ!!お供え物かよ、お前ら本当に神様みたいだぞ!!」

ユミルと104期みんなの笑い声が食堂じゅうに広がって、私とクリスタは夕飯中むちゃくちゃ恥ずかしい思いをした。