短編 | ナノ



ピストルズとシニョリーナ



「美味しそうに食べる人って、素敵ね」

ある日街角のバーで、笑顔の美女店員にこう話しかけられれば誰だって舞い上がってしまうだろう。

それが普通に言われたんだったらな。

確かに俺はバーのテーブルにいるのだが、食べているのは『俺』じゃあない。

「あっ、もう全部食べちゃった…」

酒のツマミに頼んだサラミの盛り合わせを平らげて満足顔のセックス・ピストルズが気に入ったらしい女は、厨房から生ハムを摘まんできて、また食べそびれたナンバー5に分け与えている。

「ウメェーッ!!」
「オイッ!!ヒトリダケズルーイッ」

「お前……こいつら見えてんのか?」

警戒して腰の銃に手をかけるが、女は気づきもしない、ヤバイ系の人間ではないらしい。

「こいつらって………妖精さん達の事?」

「スタンド使いか!?」

「スタンド?なにそれ…よくわかんない」

騒がないでよ、御飯不味くなるじゃないと女はぶつくさ言いながら、不機嫌顔で手元の料理にフォークを突き刺した。

「ほら、酒場で辛気臭い顔しないで!!美味しい物食べて飲んで笑いましょ?」

女の料理がどんどん俺の口に詰め込まれていく。

「ふぉっ、ふぉまえふめふぎっ!(おっ、お前詰めすぎ!!)」

俺の叫びを無視して詰め込み続けるこの女無茶苦茶だ、しかし出す飯は旨い。
詰め込まれた飯をもごもごと咀嚼すれば、満面の笑みで『やっぱり美味しそうに食べる人は素敵ね』だと。
笑顔がちょっと可愛くてドキッとした、ちょっとだけな。



「そんな事よりドルチェも食べる?」
「タベルゥゥウゥッ!!」

結局、その女はスタンド使いでも敵でもなく素質があるだけだった様だが、ピストルズが大層気に入ったらしく定期的に会うことになったのは別の話。





餌付けされるピストルズと本体