短編 | ナノ



(緑の衣、赤の該当の設定で一部ドリトル先生月へ行くのインスパイヤ)


「ディエゴ、先に行くなら落ち合う場所を決めてくれ。探すのに苦労した」
「毎回問題なく合流できてるんだ、問題ないだろ」

ディエゴ・ブランドーと行動を共にすると決めたのは間違いだったか。
確かに足こそ速く頭も回るが、余計な事に頭を突っ込みすぎる。1日で終わるような短いステージならいいが長丁場では見失うと探しているだけで日が暮れてしまう。
なんとか飼っている鳥のおかげで位置を特定できるが、それもシルバーバレットを追いかけているだけなので今回みたいにディエゴが馬から離れてしまえばもうわからない。

「こっちはお前を探さなきゃいけない上、荷物も持ってやってるんだ。自分の馬ぐらい自分で面倒をみろよ」
「どうせ次の町で金に物をいわせて補給するんだ、最低限の荷物しか持ってないだろ。金持ちはやることが凄いな」

焚き火を囲んでの野宿だが毎回準備をしているのは私だけ、今まで野宿なんてしたことのなかった私はディエゴに教えられるがまま準備をしてきたがいいように使われているだけな気がする。

「お前だってイギリスじゃあ金持ちらしいじゃあないか貴公子様、遺産はまだまだ残ってるんだろ?その上まだ富や名声を欲しがるなんて理解できないね」

イギリスの社交界の事はよくわからないがスペインに住んでいても聞こえるぐらいには、大陸の社交界にも彼の噂は広がっていた。あまりいい噂ではなかったが。

「さすが生まれながらの貴公子様は御上品だな、この世にしがらみが無い」
「……しがらみが無いならこんなレースに参加しないさ」

しがらみが無ければ弟の身代わりで、こんなキツいレースに出たりなんかしない。
元々弟の身代わりばかりしてきたが、貴族同士の付き合いだ。少々の政事抗争と不動産の管理、それ以外のほぼ9割は噂とおしゃべりで出来ている。
そんな世界からいきなり体力勝負の世界だ、このアメリカにきたのですら大分思いきったのだ。
なのにディエゴはそんな事何でもないと言うように、毎回あり得ない行動をしでかす。

「そうやって鉄砲玉みたいに飛び出していけるお前が羨ましいよ、俺にはこの世にしがらみが多すぎる。いっそ小説みたいに月世界旅行と洒落こんで、この世のしがらみから解き離れたいよ」

そうしたらお前みたいに楽しそうに生きていけるのかもしれない。
そうしみじみ考えながら焚き火を見つめていると、ディエゴが唐突に叫んだ。

「旨いなこれ」

ディエゴの手には開いたマロンクリームの缶詰とビスケット、足元には私の鞄がある。お前、勝手に鞄あさりやがったのか。

「…お前、それは俺のとっておきだこの糞野郎」





マロンクリーム缶詰がSBR時代からあることを最近知りました。でも小布施堂のが好きです。