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ジョースターのお屋敷からダニーがいなくなって、それからしばらくディオとジョジョの間に不穏な空気が流れていたのに、ある日を境にギスギスしたものを感じなくなった。

急に二人の距離が近づいて、兄弟――いや、ずっと昔から仲良しの親友みたいになった。


数年の月日の間に二人ともいつの間にか誤解をといて打ち解けてしまったみたいで、笑い合っている姿をよく見るようになる。

それを見る屋敷の人達の視線が暖かくて、私達、この家に拾ってもらえて本当に幸せだって再確認した。

悲しい事もあったけど、やっと家族になれたのだとお義父さんは喜んだ。私も嬉しかった、そのはずなのに。

(……でも、なんか変)

その「変」の元を確認しようにも、成長して大きくなった二人とは一緒にいる時間が少なすぎて、原因はちっとも突き止められないままで。
もやもやしたものが胸の奥で燻って、嬉しさに浸りきれず落ち着かない。

このもやもや、最初は私を置いて仲良く距離を縮めていく二人に嫉妬してるんだと思ったから、そんな醜い気持ちは捨てて二人を見守ろう。

もうすぐ大人になるんだし、二人は二人の、私は私の道を頑張ってひとり立ちしないと――って考えてた。

けど胸の中の燻りは消えない。
何か、そう何かが引っかかるの。

でもそれが何なのか分からないまま、ディオもジョジョも、そして私も、自分の未来を選択しなきゃいけない年齢になってしまった。
二人は大学を卒業するし、私も行儀見習いで通っていた女学校から席を抜いてしまったし。

今更それを突き止めたって、どうしようもない。


(もう、こんな変な事を考えるのはやめよう)

私達の進路の事もどうなるか気になるが、今このジョースター家はもっと大きな問題に直面している。

少し前からジョージお義父さんの体調が良く無い、医者はただの風邪だろう、すぐ治るって言うけどもうずっと寝たきりの状態だ。
今日も家の手伝いが終わってすぐに、お義父さんの部屋に駆け込んで看病に加わる。

(確かに風邪の症状みたいだけど、こんなに長引くなんておかしくないかしら……でも、お医者さまがそう診断したんだし、間違いなんてないはずよね)

こんな時に私にできる事なんて水を変えて手を握って、お話するぐらいだけど、それが少しでもお義父さんが元気になってくれるなら。私が、誰かの助けになるのは嬉しかったから。

自己満足なだけかもしれない、でも自然と体が動くのだ。大好きな人の助けになりたいって。
その気持ちはジョジョに対しても、もちろんディオにだって。それを彼が望んでくれるならだけど――

「……ナタリア?どうしたんだい、急に難しい顔をして。そんな寂しそうな表情は君に似合わないよ」

だからいつも笑っていてほしい、そう言うお義父さんの顔はどことなく力なさげに見えた。

「どうもないわ、ただ……そうね、お義父さんが急に変な事を言い出すからびっくりしただけよ」

使用人達が屋敷の隅で噂するように、お義父さんの先が長くないなんてこと信じないし、一度だって口に出したくもない。
なのに、お義父さんはそんな私の気持ちを無視してお見合い話を持ってきたのだ。元気なうちに私の花嫁姿が見たいって。
そんなの、今の気持ちで出来るわけない。

これから私が断るって気づいてるんだろう、お義父さんは何だかがっかりした表情だ。

ごめんなさいお義父さん。
私まだこの屋敷にいて、もっと勉強をしたいの。
そうしないと、私とディオとの距離がどんどん開いていって、私はひとりぼっちになっちゃう。

大人になったディオにはいらないって捨てられてしまうかもしれないけど、そう直接言われるまではディオの支えになりたい。
もっと勉強して、足手まといになんかならない女になったら、大学卒業後のディオに置いて行かれちゃうなんて事にはならない……はずだもの。

最後の、本当のギリギリまで、ディオの隣に立っていたい。
生まれてから死ぬまで、ディオと一緒にいたいの。
この、ディオに対する感情が何なのかは分からないし、それがジョジョとどう違うのか、家族の中で違いがあるのかなんてこと調べたくもないけど。
だって私はディオのいとこだから一緒にいられるだけ、だからそれ以上なんて望んだらこの関係は崩れてしまう。

気づいたって何にもならないんだから、見ないふりをしてるだけ。

「ごめんなさい。お話、お断りします。私はまだ……」
お義父さんの娘でいたい。

その言葉が私の口から漏れ出る前に、ここにいないはずの声が部屋に響いた。


「いいじゃないかナタリア。お前も、もうそろそろ考えてもいい頃だろ?」

ディオの、声変わりして甘さを含んだテノールが耳に染みる。ドアの前から声を発した声はしっかり私に届いた。




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