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ヒタヒタと忍び寄る足音がきこえる。

『あれ』に捕まってはいけない、捕まったら終わりだ、早く逃げなくては。一生懸命両足を動かすのに足音は私のすぐ後ろから離れてくれない。

ヒタヒタ、ヒタヒタと地面を這うように忍び寄る。

形振り構わず走って逃げる私は息も絶え絶えで汗まみれ、コルセットの内側は汗が溜まり、スカートの裾は汚れ黒ずんでいくがそんなの気にしてられない。

『あれ』に足など無いはずなのに、どんな生き物よりも早く追い付いてくる。生まれてきてから死ぬまで、いや死んだ先にも追いかけて来るのかもしれない。誰も死後の世界から帰って来ていないのだからわからない、ベルセポネのような体験が出来る者など人間にはいないのだから。

(―――ディオ、ディオは?ディオはどこなの?)

頼れるのは彼だけだ。
だって私にはもう彼しかいないのだ。

遠い向こうに金色の髪と長い足が見える。

(―――お願い置いていかないで、私一人でこんな所にいたくないの)

必死に手を伸ばしたけれど到底彼には届かずに、私は『あれ』に飲み込まれた。




「―――うっ!!」

息苦しさに耐えかねてベッドから飛び起きる。

ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返しながら辺りを見渡すと、自分の部屋のベッドだった。月明かりに照らされた時計は12時を指している。

(―――あんな事があったから、こんな酷い夢を見るんだ)

屋敷に賊が入って、邪魔に思われたダニーが殺された。そう聞いている。
いつだって『死』が身近にあって怖い、離れていかれるのと、死に別れるのと、もうそんな事ばっかりだ。

無意識にシーツを握りしめた手の上に、自然と溢れ出た涙がポタポタと落ちる。
涙を止めようと何度も目を擦るが、止まるどころかさらに酷くなりしゃくりあげて泣いた。

30分程たった頃だろうか、部屋の扉がノックも無しに開き誰かが入ってきた。

「うるさい、眠れないじゃないか」
「………ディオ?」

どうして?何しに来たの?なんて事を色々言ったけれど彼は答えてくれなかった。私の背中を撫でながら抱えあげられ、ディオの部屋に連れていかれて一緒に眠った。

夢も見なかった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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