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晴れた空、大きなお屋敷、優しい家族と使用人、綺麗な可愛い洋服、たくさんのおもしろい本。
ジョースター家は素敵な物だけでできている夢のお城みたい、でも、
「……つまんない」
生活レベルは、昔の、お母様が生きてた頃となにも変わらないはずなのに、あの時と違って毎日が退屈だ。
だって、私の隣にディオがいないんだもん。
昔と同じようにディオはチューターに勉強を教えてもらうのかと思っていたのに、ジョジョと同じ『学校』とやらに行ってしまった。
(私だけ仲間外れだわ)
ジョースター卿に私も行きたいってお願いしたのに駄目で、学校は男の子だけだって、私はガヴァネスに教えてもらう事になってしまった。
毎日二人が嬉しそうに外に行く背中を見送ってしまうと、広い屋敷には私だけひとりぼっち。ジョースター卿もお仕事で出ていってしまう。
今日もつまらない授業が終わって、気分転換に庭のベンチで横になっても気分は晴れなかった。
(この屋敷から一番近い女の子の学校は町の全寮制、行ったらディオと離ればなれ)
結局、どんなに生活が向上したって昔の毎日が素敵だった頃には戻れないのだ。
時は流れていくもので、時間の川から海に出たら水が逆流などしない。お父様やお母様は甦らないし、伯父さんだってそう。ディオだっていつか大人になって私から完全かな離れていくだろう、一緒にいろというけれど私がディオに与える利点なんて大人からみたらちっぽけな金だけだ。
私なんて、そのうちいらなくなっちゃう。
(やだな。ディオがいなくなったら本当にひとりぼっちだ)
何もする気がおきなくてベンチから庭を眺め続けていたら、夕暮れの向こうからジョジョがやってきた。
彼のこと、苦手――というか、まだ慣れなくて緊張する。上手くしゃべれなくて、言葉を返すだけでいっぱいいっぱいだ。
「ナタリア何をしているんだい?」
彼の後ろには白と黒で包まれた犬が隠れている、あれがダニーだろうか。
「なんにも。毎日授業が終わった後って暇よ、遊ぶ相手もいないし、外に遊びにも行けないし」
寝っ転がったままやる気なくそう言うと、ジョジョは少し考えた後に私に手を差し伸べた。
「おいでよ、一緒にダニーの散歩をしよう」
普段の私なら、彼の手を取らなかっただろうけど、つい掴んでしまったのは、きっと寂しすぎて誰かの温もりに触れたかったのかも。
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「ダニーは僕の一番の友達でこの家を守る優秀な番犬なんだ、僕のいない間はこの家を見回って異常がないか警備しているよ」
ダニーは散歩の途中途中で鼻を鳴らして、周囲を警戒している。
「すごい!賢いのね」
ジョジョに教えられたとおりダニーの頭や首を優しく撫でると、嬉しそうに尻尾を振りつつ私の顔を舐めてきた。犬に初めて触れたけど、すごくかわいい。ディオはなんでこんなにかわいい動物が嫌いなんだろう。
「ナタリア、君に重要な任務を任せよう」
じっと私とダニーがはしゃく姿を見ていたジョジョが、急に芝居口調でしゃべりはじめた。
「毎日、授業が終わったらダニーと一緒に家の警備をするんだ。君をダニーの助手に任命する」
ジョジョはそう言ってにっこり笑った。ディオとは違う、まっすぐな笑顔が眩しすぎて、ちょっと目がチカチカする。
「……私が、助手?」
「うん、だってダニーの方が先輩だからね」
そう言われて私も笑った。
ジョジョの側はすごく暖かくて、なんだかムズムズするけど心地いい。ディオの隣にいる時の、落ち着く感じとはちょっと違って、違和感が少しだけするけれど。
少しずつ何かが変わっていく、そんな気がした。
それがいい方か、悪い方かなんて、ちっぽけな私の脳味噌じゃ、判断できなかった。
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