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朝一番に放り込まれた馬車はロンドンの町中を抜け、郊外へと走っていく。
生まれてきて数年間、私の見てきた世界はロンドンの中だけだ。この先は私の知らない世界、どんどん家と家の間がまばらになっていき畑が混じってくる。
絵やお話の中でしか知らない牧歌的な光景が広がっていくと、その解放的な空が広がれば広がるほど私の心は不安が広がっていった。

「…ディオ」

不安になってきた私はディオの上着にそっと寄りかかる。すると、ディオは何も言わずに私の頭に手をあてて、あやすような仕草を始めた。
こういうとき、ディオは不思議と文句は言わない。私はそこに彼から安心や愛情を感じているが、それが本当かどうかはわからない、ただ彼の手が温かい事だけが真実だ。

(昔みたいに、こんな事がずっと続くような生活がジョースター邸でもできるといいなぁ)

そう昔みたいに、箱庭の中で、ディオと私だけの世界が……

「寝ろナタリア、着いたら起こしてやる」

ディオの優しいささやき声とともに、私の視界は幕が下りた。

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(……犬の、鳴き声?)

どれぐらい寝ていただろうか。
まだ眠っていたい気もするけれど、寄りかかっていたはずのディオが馬車の中にいない。窓の外はもう畑は見えず、どこかの庭のようで手入れの行き届いた芝生しか見えない。

「ディオ?」

震える声で呼び掛けても返事がない、ここにもう彼はいないのだ。じゃあ私は彼に置いていかれてしまったの?
着いたら起こしてくれるって言ってたのに。

「ディオ、ディオどこなの?」

起きたばかりで震える足をなんとか動かし、馬車の扉をおそるおそる開けた。もし、扉の先にもディオがいなかったら?

そんな不安があったけど、開けた先にはディオの背中があってほっとした。
その背中の先に、ディオ同じくらいの歳の黒髪の少年がいて、二人は握手を交わしている。その光景に、なぜか私の胸が傷んだ。

声をかける事がためらわれ、ディオを呼ばずに一人で馬車を降りる事にしたのだが、馬車のステップの段差は私の身長には大きくて足を踏み外してしまった。
ああ、地面に顔から落ちてしまう。

「あぶない!!」

知らない人の叫び声が聞こえ、誰かに抱き留められる。

「駄目だよ、君はまだ小さいんだから一人で降りちゃいけない」

先ほどディオと握手を交わしていた少年が私を横抱きにし、顔をのぞきこんできた。ディオとはまた違う、丸くて大きな瞳が優しい印象の顔の少年だ。

「……あなたは?」
「僕の名前はジョナサン・ジョースター、ジョジョって呼んでね。君はナタリア・ブランドーだろ?君が今日から住む家の子供だよ」

じゃあ彼は私達が預けられるジョースター家の人なのか、寝ている間にもう目的地に着いていたようだ。

「ジョジョ?私はナタリア、そこにいるディオの従姉妹よ。ありがとう」

ジョジョに横抱きにされたまま彼と握手する。ディオと同じくらいだけど、また違う温かさの手が私の手を包み込んだ。
ディオと違って強引な所が全くない事になれなくて、なんだか久しぶりの純粋な優しさが居心地悪くてむずむずする。

「こんなに可愛い妹ができて嬉しいなあ。僕は一人っ子だから、君のいいお兄さんになれるかどうかわからないけど今日からよろしく……うわっ、ディオ何をするんだ!危ないだろう!!」

ジョジョとの挨拶の最中に、ディオが私の両脇を急につかんでジョジョから引き離した。
強引に担ぎ上げられてしまい、ディオはジョジョを無視して荷物を持って歩き出す。

「フン、行くぞナタリア」

私の目線からは、さっきジョジョに抱っこされてた時と違ってディオの顔は見えないけれど、その強引さと触れている少し冷たい体温がいつものディオらしくて安心する。
それにジョジョに可愛いなんて言われて、恥ずかしさに真っ赤になった顔を隠すことができてちょうどよかった。

だって、私ディオにだって、そんなこと言われたこと無かったんだもん。



あっけにとられていたジョジョが追いかけてきた時には、目の前に大きなお屋敷が見えてきた。

ここがジョースター家、私とディオが今日から暮らす場所のようだ。




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