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「叔父さん…あの…お酒は…」

寝室の窓をそっと開けて様子をうかがったけれど、叔父さんにギロリとひと睨みされて心臓が飛び上がってしまい台所に逃げてきた。

どうしよう、どうしよう、どうしよう!

必死に台所を探すけれどお酒は見当たらない。私の手の届かない棚に隠してあるのかもしれないけれど、踏み台も無くて探しようがない。

(他にお酒のありそうな所は…)

台所のなかでおろおろと悩み歩いていると、今日持ってきたばかりの私の旅行鞄に躓いた。そうだ、私の荷物の中に……

「あった!」

叔父さんが飲むかどうかはわからないけれど、薬として持っていたアブサンをひと瓶発見した。

(これなら叔父さんも飲むかもしれない)

瓶とグラスを持って台所から出ようと扉を開けると、誰かが急に入ってきてぶつかりはね返されて尻餅をついてしまった。ドスンと床に叩きつけられる音はしたけれど、ガラスの音は無いからお酒は無事の様でホッとした。

「何をしている?」

ディオだ。仕事から帰ってきたみたいだけれど、彼のシャツは別れた時にはない汚れ染みが広がっていた。

「おっ、叔父さんが起きてお酒が欲しいみたいだから持っていこうと思って」
「アブサンか…そんな酒アイツに必要ない、そこら辺の水みたいなやつで十分だ」

ディオは私の手の届かない棚の上から透明な液体を取りだし、水で割って、何か懐から取り出した紙包みに入った粉を混ぜ別の瓶に入れ換えた。

「そのお酒はジン?その粉はなあに?それを入れると水で薄めたのが誤魔化せるの?」
「……そんな所だ、度数がキツいからお前は飲むなよ」

テーブルの上を見上げ液体の入っていた瓶を確認しようとしたけれど、触れる直前にディオが取り上げ棚の上に戻してしまった。


キッチンでやっとの夕飯にありついているうちに、いつの間にか叔父さんはお酒を飲んで満足したみたいで寝てしまったようだ。一番いい部屋の、大きなベッドを独り占めして。
そういえば、ブランドー家に来て初めての寝床はディオのベットだった。家も家具も食器も何もかもが二人分で出来ているこの家では、ディオの物を少しずつ分けてもらって生活することになる。ここでは生活の苦しいディオの物を奪うことによって私の生活が保たれるのだ。

(ごめんなさい。明日からはもっとディオの役に立てるよう頑張ろう)

布団のなかからちらりとディオの様子を覗くと、規則的に上下する肩が見えた。ちょっとだけ見える横顔は、今日殴られた所がまだ腫れていた。

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「お金を稼ぐにはどうしたらいいかって?まあアンタの面ならもう何年かすりゃあ、大通りで稼げるようになるんじゃないかい?」

この生活にもなれてきた頃、井戸で顔馴染みにきいてみたら、じっと顔を見つめられた後そう返ってきた。私の頭が悪いからかな、言われた言葉の意味が良くわからない。

ブランドー家に引き取られて1年ぐらい経つ、今は家の家事と近所から請け負った繕いやお針子が私の主な仕事だ。ちょっとは屋敷で習った行儀作法が稼ぎになって嬉しい。

お小遣いにせず全部にあげたら、馬鹿だと怒られほっぺを抓られた。そういうのは俺だけにしろよ、なんてことも言ってたなあ。あれも意味がわからなかった。

ディオは家族なんだから、他の人になんかお金上げないよ。それに、ちっぽけでガリガリの私より、格好良くて成長期で生活費を稼いでくれるディオが使った方がお金も喜ぶじゃない。

みんなが去ったあとも洗濯を続けていると、家からディオがやって来た。

「ナタリア、洗濯はもういい。家に入れ」
「でもまだ終わってない…」

まだまだなれない洗濯は他の家の倍近くかかり、いまだに井戸の辺りをブランドー家の洗濯物が陣取っている。

「そんなの放っておけ。親父が死んだ、これから葬式だ」

吐き捨てる様なディオの声は冷たかった。
その一言からジョースター家に着くまでの出来事はあっという間。まるで誰かに全てを用意されていたような感じがして、シンデレラになったような、夢みたいな数日だった。




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あの時代の安酒って工業用アルコールなイメージ

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