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初めて歩く下町は煙ががって汚いけれど活気に満ちている。
ディオの上着の裾を掴みながら、きょろきょろと余所見して歩いていたら、不機嫌顔のディオが急に振り向いて私を担ぎ上げた。
「服が伸びる」
担ぎ上げられたまま店をひととおりまわると、いきなり地面に下ろされる。勢いがつきすぎて力に逆らえず尻餅をついてしまった。
「ナタリアはほんと愚図だな、ここじゃすぐに野垂れ死にそうだ」
「そんなことないもん、ディオが乱暴なだけなのよ」
昔からディオはちょっと乱暴な行動が多かったけれど、私がブランドー家にお世話になってからよりいっそう横暴になった気がする。
「口が達者なのはいい事だが、今日からは手足をしっかり動かせ」
手をのばされたからおこしてくれると思ったのに頬をつねられた、やはり横暴だ。
「これから毎日、市場が出る日は俺と一緒に街へ出て買い物を手伝え。それが終わったら荷物を持って家に帰るんだ、それがお前の仕事だ」
「ディオは?」
これからお金の管理も、買うものの選択も、みんなディオがする。私は世の中のことさっぱり分からないから、手際が良くて凄い頼りがいがあるなあ。
すぐに今日の買い物が終わり、両手いっぱいの荷物が私に押し付けられる。
そんな、ディオは一個も持たないなんて不公平だ。
「迷わず家に帰れよ、俺はこのまま仕事に行く」
「仕事って?」
私がオウムの様に聞き返すと、ディオは溜め息一つつき呆れるように答えた。
「……色々とあるからこんなところで説明するのは面倒臭い、自分で考えろ。それと、帰っても親父には近づかないほうがいいぜ。近づいたらさっきみたい殴られる、あの酒浸りの機嫌は悪い時ばかりだからな」
ディオの言葉で先程の光景を思い出し、ゾッとした。
「…うん、気を付ける!」
ひきつった笑顔で元気よく宣言すると、ディオは満足したようで私の頭を撫でたあと、人混みの中へ飛び込んでいった。
去っていくディオの後ろ姿を見えなくなるまでじっと見つめた後、ブランドー家に向けて歩き出した。
なんとかやっていけそうな気分に浸りながら。
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(ディオと叔父さんは仲が悪いのかな?ディオが酷く嫌そうな顔をしていたし)
ディオの家に帰ると、叔父さんは部屋で眠りこけていて安心した。
おそるおそる台所に逃げ込んで、ディオが仕事から帰るまでの間に簡単に食事を作ることにする。屋敷にいた頃と違って、ディオに凝った食事は出せないけれど、私に出来ることはきっちりとやりたかった。
ただ、大人向けのキッチンは使いづらくて四苦八苦したので、だいぶ時間がかかってしまったけれど。
手間取った事はディオには秘密にしておこう。
「……酒だ」
「え!?」
ここにあるはずのない、大人の男の声がする。
「酒だ!酒持って来い!!今すぐだ!」
家の奥、寝室の方から怒鳴り声が聞こえてきた。
叔父さんが起きてきてしまった、どうしよう!
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