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ついさっきまで横で私の事を説明していたディオが飛ばされた。ガチャガチャと激しい音をたてながら、玄関に叩きつけられる。
「ディオッ!?」
「仕事も出来ねえ穀潰し引き取って来やがって!さっさと教会に突き返して来やがれ!!」
口泡を飛ばしながら叫ぶ中年男性は、たぶん私の叔父さんなのだろう。この家はディオと叔父さんの二人で住んでいると聞いている。
「血が…」
殴られたディオの口元は血が流れ出ていて、初めて見た流血に驚いた。早く手当てしないといけないと駆け寄ると、ディオの左手に押し返された。
「滲んだだけだ、構うな」
ディオは何でもないように袖で口元を拭い、ゆっくりと立ち上がる。
滲んだだけと言うけれど、頬が腫れ始めていて痛そう。私なんかを引き取ってきたせいだ。
「やっぱり私、修道院に…」
「黙れナタリア!」
初めて聞くディオの大声に体が固まる。
恐る恐るディオを見上げると教会にいた時と同じ顔で叔父さんに話はじめた。
「父さん。こいつは確かに何も出来ない穀潰しかもしれないが、こいつがこの家に居るだけで儲かるのさ。こいつの年金は成人するまで保護者が受け取れる……つまり金の雌鳥だ」
「……そりゃあいいなあ」
叔父さんの低い笑い声が部屋全体を包む。
「酒だッ!新しい酒買ってこい、今夜は祝いだぜ!!」
笑いが少しおさまった叔父さんは上機嫌で奥の部屋に帰っていった。のしのし歩く後ろ姿は片寄っていて、なんだか不安定だ。体が悪いのだろうか?
「―――フン、あと少しの辛抱だな」
「えっ?」
俯いていたディオがぽつりと何かを呟いたけれど、小さすぎて聞き取れなかった。
「いや、何でもないさ。ほらナタリア買い物に行くから手伝え、荷物持ちだ」
ディオは有無を言わせず私の手を取って玄関の外へと促した。
あれだけ強く殴られたのにディオの顔がやけに晴れやかで、気にした風もないのは不思議だ。
(そんなに痛く無かったのかな?)
あんな風にぶたれたことないから、ちっとも想像できない。自分の片頬をつねってみたが、痛い。なんでだろう、ディオと私は違うもので出来てるんだろうか。
(だからこんなに格好よくて頭がいいのか?)
そんなディオがこんな私に構ってくれる理由がよく分からない、お金が欲しいだけなら家に放り込んでおくだけでいいだろうに、私を守るような事をして、私を叔父さんから離そうと連れ出すんだろう。
非力な私が荷物持ちに役に立たない事ぐらい、賢いディオなら分かってるはずなのに。
不思議だ。
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