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そんなディオの瞳は黒い炎を灯したように揺らめいている。
その瞳が恐ろしいのに目をはなす事ができない。恐怖に腰が抜けて滑り落ちそうになるって体が、まるで縫い付けられたかのようにディオの腕の中から一歩も抜け出せなかった。

「俺はこの腐った世の中から這い出たい」

頬が触れ合うくらいに顔を寄せられ耳元で囁かれた。ギラギラした瞳と舌舐めずりしそうな口元、まるで獲物を目の前にした獣のようで、恐ろしくて涙が止めどなく流れ膝が笑いだした。

(……食べられるっ!!)

また座り込みそうになった私の背中をディオが抱え込み片手で抱き抱えられた、あまりの急な体勢の変化についていけず喉がのけ反って体が軋む。
それでもディオは気にせずに顔を寄せつつ、私の髪をつかんで顔を引き上げた。髪に付けていた生花が外れて地面に散っていく。

「這い出て、登り詰めて、俺を踏みつけている奴等を踏みかえしたいのさ。天辺からな」

ディオは地面に落ちた私の飾り花を踏みにじった。
花びらは泥にまじり色を失っていった。

「俺についてくるんだナタリア。母親や屋敷を失おうとも、お前にはまだ一番素敵な金が、お前の親父の遺産がある。チャンスは有効に使うべきだと思わないか?修道院に行くのも貧民街にいるのも同じようなもんだが、俺と来るなら這い出る時に手を引いてやるよ。……悪い話じゃあないだろう?」

いつの間にか私の頬に流れていた涙を舐めとり、何かに酔った様に喋り続けるディオは本当に屋敷に来ていた優しい従兄と同じ人物なのだろうか。
今までの聡明な少年とはうってかわり妖しい魅力が流れ出てのまれそうだ。

「天辺からの景色を一緒に見たくないか、きっと最高に気分がいいぞ?」

私を抱えあげたまま待合室のベンチに腰を下ろし、縮こまった私の両手をディオの両手で包み込んだ。

黒い炎は私を捉えたまま、視線を外そうとはしない。彼の瞳は『逃がさない』と、いや『逃しはしない』と叫び続けている。
美味しい兎を逃すもんかと、涎を垂らし唸りをあげている肉食獣みたいだ。

正直、ディオがおそろしい。
でもそれ以上に魅力を感じている私にはディオは神様以上の存在に見えた。一緒にいた時にあった安心感を覚えているせいか、おそろしくても私には牙をむかないような気もして。

それに、おそろしいはずなのに、ディオが悲しそうに見えたから。
この教会で、一番悲しいのは私のはずなのに、ディオはひどく不安定に思えた。まるでこの世の終わりで追い詰められたみたいな空気をまとってる。
そんな辛そうな中で、一人でがんばらないで。私は何も出来ない足手まといの子供だけど、でも私だけはずっとそばにいるから。だから

今、この手を離したらいけない気がするの。


まるで吸い付くようにディオの手を握り返した。
繋いだ手の先が地獄だとしても、この手に伝わる熱があれば後悔しないと、その時私は思っていた。





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