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こんなに悲しいのに、教会の外は綺麗な天気だというのが憎い。美しい空の色が私達の纏う黒を更に濃くしていた。
式が終わり、ようやく泣き止んだ私が神父さまに促され外に出ると、雇った人夫達が母さんの棺を教会の隅に埋めていくのが見える。
お父様の墓はここにはない。屋敷に来なくなったのは病気で亡くなったからで、お母様は病気なんかじゃなくてお父様が亡くなったショックが大きかったとお医者様に教えられた。

私は何も知らなかった。
私はもう世界を失った。

土が少しずつ重ねられ、棺すら見えなくなっていく。
安らかに眠ってほしい、でも私を置いていかないでいてほしい。神様が私に手を差し伸べてくださるのなら、どうか『時を止めて』くださるといいのに、お母様が地下の世界へ行ってしまわないように、数日前に戻ってお母様の『時を止めて』くださればいいのに…

「ナタリアこれからどうするんだ」

真新しい墓石の前で座り込んでいる私をディオが無理矢理立たせ、肩に手を置き教会の待合室に促した。

「―――修道院に入ろうと思うの。お父様の年金もあるし不自由はしないわ」

俯きながら進む教会への道のりがディオとの最後の散歩道だと思うと、枯れ果てたと思った涙がまた溢れだして視界が歪む。
泣きたくない、ディオとのお別れがこんな滲んだ思い出なんて嫌だ。

「修道院に行けば神が救ってくれると思っているのか?昔、軍が進路上にいた修道院をなぶり殺しにしたなんて事があったな。今だってそう大して変わらない、何かあっても口封じされて終わりだ。年金なんて修道女達に掠め取られて手元に届かなくなるだろうよ」

辛辣な言葉もディオからの忠告だと嬉しく感じる、でも

「だってそれしか道はないわ、私に遺されたのは僅かな遺産と、お父様の遺した年金だけ。他は屋敷も何もかもお父様の家にお返ししなくてはいけないの」

ディオと過ごした屋敷も庭も思い出も。みんなお返しして、私の荷物は小さなトランクひとつと猫だけ。

「全部お返しして、ほとんど残らないのよ。私一人で生きてなんていけないわ」

震えてうつむく私の頬をディオの両手が包み込み、上へと引き上げた。
あのギラギラした瞳が私を射抜く。



「ナタリア、お前は俺の家へ来い」




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