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私は生まれた時からこの屋敷を出た事がない。私や母さんが外に出るのは『世間体が悪い』のだ。仕方ない。
お年をめしたお父様にはちゃんと奥様がいて息子も、私の異母兄も甥姪もいる。
軍人としての偉業で貴族の一員になんとか加わったばかりのお父様の家庭に、私達母子は『あってはならない』のだ。
だから隠れるように、敷地の中だけで暮らしてる。

そんな閉鎖的な屋敷に、いとこのディオは私が生まれた時から出入りしている。住んでいるのは下町の叔父の家だが、私といっしょに家庭教師と勉強したりマナーを学んでいるのだ。

下町の人は読み書き出来ない人も多いから、ここで学んだ事を活用して手紙とか役所の書類の代筆を仕事にしているらしい。

けっこうな金になる、とはディオは言うけれど、叔父さんの病気がいっこうに治らないから薬代にみんな消えてしまって、ディオの家は貧しいままだ。
そして、ディオも忙しくてなかなか屋敷に来てくれない。

それでもディオは時間を見つけては気まぐれに屋敷にやって来て、図書室の本を庭のベンチで読む。

その姿はほんとうに素敵で、まるで一枚の絵のようだけど……


「ディオは私より本が大好きなのよね」

猫は私に同意したようで、ミィと鳴いて頬にすりよった。
最近、ディオは昔みたいに私と遊んでくれない。ディオが家に来るのは私に会いに来るんじゃなくて勉強をするためなんだ。

「どうせ私はつまんないチビだもん、本を読んでた方が楽しいもんね…」

私にかまってくれないのはさみしい。
目の前に見える本を視界に入れたくなくて、顔をディオのお腹に押し付けた。

ディオはふんと鼻を鳴らして、持っていた本を私の肩に伏せた。
重い、私の肩は栞じゃない。

「ナタリアは何もわかっちゃあいないな。第一、物と人間を比べる事自体がナンセンスだ」

ぐりぐりと頭を撫でる手は温かくて大きいけれど、私を見てはくれない。それでいて、ふとした時に私を見るときは、あの綺麗な瞳をこちらに向けて笑うのだ。
馬鹿な私は、その瞬間寂しさももどかしさも全部吹き飛んでしまって、全部許して受け入れちゃうんだ。
ほんと、馬鹿だなあ。


でも、ディオは時々物凄く冷たくてギラギラした目をする時がある。

そんな時は彼が遠くに感じて、それが少しだけ怖かった。




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