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『生きる為』、その為に自分のプライドを痛め付けて生きる事に辟易する。
『俺はこんな事をする為にへこへこと頭を下げ続けて生きるしかないのか!!』

ディオの心が絶望と不安に包まれかけたその時、猫のような声が部屋の隅から響いた。
それは二人の『運命』が重なった瞬間だったのかもしれない。

声の主は赤ん坊だった。
弱々しいからだは美しいレースで包み込まれており、美しいブルーグレイの瞳だけがレースの影からディオを覗いていた。

「私の娘のナタリア、貴方の従姉妹よディオ。姉さんが死んだ日に産まれたの」

その瞳を見た瞬間、ディオの心はいかづちに撃たれ、怒りによる震えが止まった。
瞳の色は違うのに、母を思い出した。見詰めているだけで安らぐ、母が子に与える絶対的な安心感を、ディオは幼児から感じていた。
彼は無意識のうちに母と従姉妹を重ね合わせていたのかもしれない。

「これも何かの運命なのかしら、ナタリアと仲良くしてあげてね。新しい家庭教師はこの子の為なのよ、この子にはとびきりの良い人生を歩んで欲しいですもの…」


『運命』、そうだこれは『運命』だ。
この赤ん坊は俺の為に産まれたのだ。
ナタリアの環境は俺をどん底から引き上げてくれるだろう。
叔母の側で知識を学び、人の繋がりを手に入れることが出来れば、上の世界へ、『良い人生』を手にいれるチャンスが俺にもある。
俺にならきっとそれが出来る。
そしてそれ以上に、えもいわれぬ安心感を与えるこの赤ん坊が欲しい。
俺だけの物にしたい。

ディオの頭の中に残酷で甘美な計画が浮かんだ。
その甘美な空想に、ディオの口端から隠しきれない笑みがこぼれる。

「私の天使は可愛いでしょう?」

叔母はその笑みを従姉妹への感動と勘違いしたようで、ディオに微笑みを向けてきた。
下品な笑いにヘドが出そうになるが微笑み、仮面の下にしまう事にした。

「はい。教会で見た、どの天使より愛らしい」

腐った親父や叔母を踏み台にして、このしみったれた人生から脱け出してやるんだ。
こいつと俺と、二人で。




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テーマ「人外ファンタジー」
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